© 1996-1997, Kyu-hachi TABATA
ヘルシンキだより #8      1997- 3-21 記

2月以降、暖かい日(気温4〜6度)が続いています。新しいフラットの周辺には自然があり、大学への道すがら、カササギ (Magpie/Harakka)、シジュウカラ(Great tit/Talitiainen)、アオガラ(Blue tit/Sinitiainen)といった野鳥によく出会います。先日は、アカリス(Red squirrel/Orava)も見ました。すぐ近くの木に登っていたのですが、人をまるで恐れないので驚きました。ウサギも見る事がありま す。

仕事の方ですが、免疫染色や in situ hybridization のデータが出はじめました。Tabby 遺伝子の働きやその周辺がおぼろげながら見えて来ました。どうやって機能に切り込んで行くか、ここからが正念場です。ラボの仲間とも雑談混じ りで話ができるようになりました。元気でやっております。間違いなく、私のこちらでの研究生活は 2nd step に入ったと思います。ラボのみんなが手加減しなくなったからです。特に Tabby グループはお互いに仕事が重なるところが出はじめ、手強い Competitor に感じることがしばしです。


8-1 カメラの修理(2月21日)

オーロラ撮影のあと、シャッターが下りなくなってしまったカメラ Canon FX の修理をすることにしました。街にはあちこちにカメラショップがあります。一体、どこがいいだろう? と同僚の Anne に聞いたところ、Oksasen 通りにある Kamerahuolto という店が一番だ、そこは修理専門店で腕がいい、大学の光学器械なども修理する、との説明。早速、行って見ました。

小さな店には、販売用の中古カメラと、修理を終えたカメラを納めていると思しきボール紙の箱が整然と並んでいました。主人は私のカメラを手に 取るとフィルムがないかどうかをまず訊ね、裏蓋をあけ、レンズをはずし、シャッター幕を指で確かめる様にいじっていたかと思うと、次の瞬間に はカメラのシャッター音。あっという間に直ってしまったのでした。私も似たような事は試していました。このカメラとは付き合いが長いし、大概 の簡単なトラブルなら治して来ました。そこでどうやって治したのか聞いたのですが、言葉が通じなくて結局わからずじまいでした。

また、彼は「どこも悪くなかった。だから修理代はいらない」といってお金を受け取りませんでした。嬉しくて、カメラを大事に抱きかかえる様に しながらお礼を言って店をあとにしました。彼の柔らかそうな大きな手、機械油のしみこんだ手が印象に残りました。

(追記)6月に、Canon T70 のズームレンズの修理で再びお世話になりました。うっかり、カメラを落として、レンズの外筒と中筒がずれてしまい、レンズ回転不能になってしまったので す。最近のズームレンズの設計はかなり複雑ですから、修理は無理だと思いましたが、これも1週間でやってくれました。さすがにメーカーによる 再検査の必要を感じていますが(無限遠でのピントや画像の歪褶がよくないような気がするからです)、それにしても、まず無理と思った故障が 直ったので驚きました。

8-2 みんなを招く(2月28日)

引っ越しの手伝いをしてくれた Anne, Tuija, David, Thomas そしていつも世話になっている Johanna を新しいフラットに招きました。Anne が Vegetalian(菜食主義者)、Thomas は魚アレルギーだということも考慮して、豆腐料理(=湯豆腐や水炊き)をメインにし、鮭のにぎりやいなり寿司などを準備しました。みんなお酒 やグリーン(鉢植えの植物)などを手土産にやって来て、箸は初めてだ、とか寿司は手を使ってもいいとは知らなかったとか、日本酒は初めてと か、コップに入れていた水炊きのつけ汁を間違えて飲みそうになったり、とわいわい、がやがや。最後はアイスクリームを食べてお開きになりまし た。

8-3 大島先生の来フィン(3月2日)

新潟大学・歯学部・口腔解剖学第2教室の大島勇人先生が来フィン。同じく Irma のラボで10ヶ月の予定で研究です。ヘルシンキ空港まで Thomas と一緒に迎えに行き、そのあと彼のフラット(私が住んでいた旧フラット)まで送り届けました。彼は電顕レベルで歯の発生を追う仕事をする予定です。

8-4 いそがしい一日(3月6日)

朝8時半から:Developmental Biology Seminar というセミナーの発表当番でした。日本でやっていた仕事(HGF の仕事〜細胞培養の系の確立〜HGF の細胞レベルでの解析)をスライド 40枚、約50分(Discussion 含む)で紹介しました。勿論、英語です。不思議なもので、稚拙な英語ながら、原稿なしで話ができました。Discussion も何とかこなすことが出来、我ながら驚きました。4ヶ月前の自分を考えると驚くばかりです。また、Irma が最後のスライド(花見の後の記念写真)に comment して、「日本ではもう桜が咲いているのか?」と聞いてくれました。心遣いがうれしく思いました。

Seminar のあと:Irma と Tabby Meeting。嬉しいことに私のデータや技術、知識に信頼を置いた上での Discussion でした。私の行って来た Tabby 関連のタンパク、遺伝子の発現パターン解析の予備実験がかなり進んで来たため、次に何をやるかというのが話の中心です。結局、Tabby の歯胚形態についての3D解析(これは Irma の強い希望)と培養系を使った機能面の追跡(これは私の希望)のふたつを今後、やることになりました。もちろん、発現解析の方も進めなければなりません。

昼から:Anja Tuomi のオペレーションを見ることができました。彼女は多分、世界で最高の技官です。腕も確かですが、それだけではありません。本当にすごいのは、St 11 から 14 のマウスの発生段階の特徴を克明に知っていることで、それらをチェックしてからオペレーションに入ります。彼女は、私の求めに応じて仕事の後、チェックの ポイントをレクチャーしてくれました。

8-5 Anja と一緒に仕事をする〜初めての培養(3月14日)

Anja と一緒に仕事をする機会がついに来ました。マウス胎仔から歯胚を取り出し、上皮・間葉をパンクレアチン処理で分離し、また再結合し、そのあと1週間培養す るというのが今回のスケジュールであり、この仕事を通して Irma のラボの持つ基本的な培養のノウハウを覚えること、そして今後の具体的な仕事の進め方を考えるのが目的です。

そこで、前日のうちに実体顕微鏡にビデオカメラをとりつけ、モニターで彼女の作業を見る事が出来るようにしまして、彼女のレクチャーを受けつ つ作業しました。彼女の厳しくかつ熱心な指導のおかげで、何とか上皮と間葉を分けるところもできるようになり、そのあと、再結合して器官培養 する作業を行いました。朝9時からスタートして、途中30分ほどの昼食をはさみ、夕方の5時頃まで、顕微鏡下での作業が続きました。歯胚はた だでさえ小さく、見えにくいのに、上皮と間葉を分けるとなるとさらに見えにくくなります。勘所は、一体、何がどこにあるのか、どんな形をして いるのかが、常に把握出来ているかです。また、分離後の上皮は、Tension の関係で反り返ってしまい、形が随分と変わってしまいます。このあたりも実際に見て、説明を受けてやっとわかりました。

Anja も最後の方はかなり疲れていて、再結合のところは Paivi がデモンストレーションをしてくれました。私もとても疲れましたが、収穫の多い1日でした。

8-6 体調を崩す(3月15日〜21日)

ここのところ、仕事が忙しかったのと、気温が高くて(4−8度)、ちょっと歩くと汗をかいてしまったりで風邪?のような症状から、寝込んでし まいました。最初の3日間は、完全に寝たきり。直ったかな? で大学に行き、また寝込む。結局、回復に1週間かかりました。ちょうど、仕事の 節目で考え事や調べ事も多く、また引っ越しなどで生活のリズムも変わり、体調が崩れたのだと思います。

8-7 花らっきょうとカレー

らっきょうのピクルス(Hillosipuleita)を見つけました。瓶詰めで売っていて中のらっきょうは日本のものとはちょっと形が違い ます。でも味も匂いも歯触りも桃屋の「花らっきょう」と殆ど同じというかもっとおいしいぐらいなのです。で、今度はカレーが食べたくなりまし て、探しましたが、お子様カレーのような味の瓶詰めカレー(Uncle Ben's Curry)ぐらいしかなくて(でも綾子は大喜び)、欲求はまだ満たされていません。

(追記)ユニカフェでたまにカレーを使ったグラタン料理が出ます。一番下に米がしいてあり、その上に牛肉がたっぷりはいったカレーがかかり、 さらにその上においしいチーズがあり、これをオーブンで焼いたものです。ユニカフェのグラタン料理はどれも美味しいのですが、カレーグラタン は中でも秀逸です。

8-8 手作りうどん

潤子が時々、うどんを作ってくれます。こちらで買った小麦粉(強力粉)をうすい塩水でといて、こねて、寝かして、麺にします。試行錯誤の部分 もまだあるので、固めになったり柔らかめだったりと日に寄って違いが出ますが、とてもおいしい麺が出来上がります。時々食べるお茶漬けとなら んで、うどんは普段着の日本の味です。

8-9 ヨーグルトとシリアル

こちらでは、朝食や昼食にフルーツの入ったカップ・ヨーグルトやシリアルをよく食べます。いずれもとてもおいしく、お茶漬けの様にざざっと流 し込む様にして食べる事が出来、栄養満点です(しかもとても安い)。忙しい時や、食欲のない時、病気の時も、さらさらとお腹に入ってしまう便 利な食事です。

シリアルのレシピは大体、次のとおり。まず、プレーンフレークをお皿に8分、押し麦と乾燥フルーツの入ったミックスシリアルを2分、 砂糖とベリージャムをスプーンでひとすくい、ピーマという発酵乳と牛乳をたっぷりかけてできあがり。まさに日本のお茶漬けのような感じで、ひ とそれぞれのレシピがあるようです。

最初はこんなもの、子供の食べ物じゃない? なんて思っておりましたが、食べ方がわかるとこれほど重宝なものはありません。パンを焼いてバ ターを塗って食べるよりもシリアルを作った方が早くておいしくて、ヘルシー。これにヨーグルトをひとカップ食べたらもう朝の腹ごしらえは完 璧。


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