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エ ナメル芽細胞分化の研究
Research of Ameloblast Differentiation


エナメル質 は上皮由来の硬組織であり、もっとも硬いという特質もあります。しかし、その形成の仕組 みはよくわかっていません。そこで、ラット切歯から取り出したエナメル芽細胞の研究を1992年から行っていて、有用な細胞マーカーであるサイト ケラ チン14の発見さまざま な細胞成長因子やマ トリックスの効果についての研究間葉系細 胞の共存による分化誘導の研究などをしています。

ameloblast



■1.エナメル芽細胞の特徴エナメル芽細胞の分化

1) 極端な円柱状になり、核が偏位して明確な極性を示します(写真上)。
2) 上皮でありながら、硬組織を作ることができ、しかもそれが生体でもっとも硬い硬組織となります。
3) 基質形成期で基質を作りつつ石灰化を始めますが、その後、再分化して、成熟期になり石灰化をさらに進めます(右図)。こういうふた つの 機能期を 持つ細胞というのは希です。
4) 成熟期のエナメル芽細胞の形態は、80-90%がRA(=波状縁をもつ)ですが、周期的にSA(=波状縁をもたない)という形態を とる細胞群が現れ、またRAに戻ります。しかもこれが集団で現れるのでこれを GBHA染色などで視覚化すると帯状の構造が現れます。非常に不思議な現象です。

以上の点から、エナメル芽細胞の分化の仕組みの解明は、非常に意義のあることだと考えています。

参考文献
田畑純: 口腔の発生と組織 第4版 南山堂 (2019) ★★
田畑純: 口腔の発生と組織 第3版 南山堂 (2015) ★★
高野吉郎: 細胞がつくる動く縞模様. ミクロスコピア, 17: 252 - 257 (2000) ★★
高野吉郎: エナメル質にかくされていた美しい縞模様. ミクロスコピア, 1: 26 - 31 (1984)




■2.細胞マーカー サイトケラチン14 の発見Immunostaining pattern of
          cytokeratin 14 on rat mandibular

1992年からエナメル芽細胞の研究を開始しましたが、当時、一番の問題は信頼できる細胞マーカーや分化マーカーが無いということでし た。そこで、当時の教室にあった全ての抗体を試し、次に、初めて当たった科研の大半を費やして、抗体を何種類も購入し、片っ端から免疫染 色をしてマーカー探しをしました。そうして見つかったのが、Cytokeratin 14 (K14, CK14)でした。

この抗体を使うと顎の中では口腔粘膜上皮と歯胚上皮がきれいに染まります(右)。形態が著 しく変わる培養下でも、歯胚上皮由来の細胞がCK14を発現していることがわかり、優れた細胞マーカーであることが示 されました。

CK14の良さは広く知られるようになり、広く使われるようになりました。製品もモノクローナル抗体だけでなく、良質なポリクローナル抗 体 が販売されるよう になり、適用範囲が広がりました。また、CK14の発現部位が歯胚上皮に限局することから、特定の遺伝子を歯胚上皮に強制発現させるときに CK14 のプロモーターを使うと有効であることが示され、さらに利用方法が広がりました(Gritli-Linde et al, 2002)。

今では、CK14 は歯の発生研究に欠かせないツールであり、歯の発生研究の発展に大きく貢献しています。

参考文献
Tabata MJ, Matsumura T, Liu JG, Wakisaka S and Kurisu K:  Expression of cytokeratin 14 in ameloblasts-lineage cells of developing tooth of rat, both in vivo and in vitro.  Arch. Oral Biol, 41: 1019 - 1027 (1996) ★★
Gritli-Linde A, Bei, R.Maas M, Zhang XM, Linde A, .McMahon AP: Shh signaling within the dental epitheliium is necessary for cell proliferation, growth and polarization. Development, 129: 5323 - 5337 (2002) ★
 



■3.エナメル芽細胞の分化研究ameloblast on
          culuture

齧歯類の切歯は常生歯(=常に伸び続ける歯)であるため、エナメル質形成が常に起こっています。そこで、ラット下顎切歯からエナメル芽細 胞を調整し、無血清培地を用いた初代培養法を使って、その分化を探る研究を行っています。

エナメル芽細胞に効果のある細胞成長因子は何か、細胞外マトリックスは何か。

1998年には歯胚培養でHGFが効果があったのをふまえて、エナメル芽細胞に対してHGFがどのような効果を持つのかを調べ、増殖と遊 走を増加させること、その効果は可逆的であることを示すことができました。

参考文献
Tabata MJ, Matsumura T, Fujii T, Abe M, and Kurisu K: Fibronectin accelerate the growth and the differentiation of ameloblast-lineage cells in vitro. J. Histochem. Cytochem. 51: 1673-1679 (2003)
Matsumura T, Tabata MJ, Wakisaka S, Sakuda M and Kurisu K:  Ameloblast-lineage cells of rat tooth germs proliferate and scatter in response to hepatocyte growth factor in culture.  Intn J Develop Biol, 42: 1137 - 1142 (1998) ★★
田畑純, 松村達志,栗栖浩二郎: エナメル芽細胞の初代培養法. Arch. Comp. Biol. Tooth Enamel, 7: 23-32 (2000) ★



■4.エナメル芽細胞と歯乳頭細胞の共培養研究TDL

2007年からはそれぞれ単離したエナメル芽細胞と歯乳頭細胞を立体的に共培養する TDL (Three Dimentional and Layerd) 培養法を考案し、両者共存化での細胞の相互変化を調べています。

両者の間では、エナメル芽細胞が円柱化しはじめ、歯乳頭細胞は細管様突起を伸ばし始めるのが確認できました。

野谷拓也はこの研究で JADR の奨励賞を受賞しました。

参考文献
Notani T, Tabata MJ, Iseki H, Baba O, Takano Y: Introduction of a three-dimensional and layered (TDL) culture, a novel primary co-culture method for ameloblasts and pulp-derived cells.  Arch. Histol. Cytol. 72: 187-198 (2009) ★
田畑純, 松村達志,栗栖浩二郎: エナメル芽細胞の初代培養法. Arch. Comp. Biol. Tooth Enamel, 7: 23-32 (2000) ★

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