© 2000-2024, Kyu-hachi TABATA Last updated 2011/09/24

「展覧会の絵」 その他の編曲について
"Pictures at an exhibition" about other version


■1.概要

/ 展覧会の絵 / Pictures at an
          exhibition1922年のラ ヴェル編曲による管弦楽曲「展覧会の絵」の人気はそ の後、多くの編曲のきっかけとなります。吹奏楽、器楽曲、ロック、ジャズ、シンセサイ ザー、アニメーションなどなど。こうした「展覧会の絵」を聴くときは3つの楽しみがあると思います。ひとつめはムソルグスキーの音楽(=原 曲)の 面白さ。 ふた つめはアレンジ(=編曲)の面白さ。3つめは演奏の面白さです。この3つは本来、別個のものですが、相互に密接に関連しています。

なお、ベースとなるのは、ピアノ譜なら原典版、オケ譜ならラヴェル版が普通ですが、アレンジや演奏の際に課題となるのは次の3つです。

(a) ムソルグスキーの心情をいかに表現するか: 友を失った悲しみ。友への賛歌。芸術への思い。
(b) 絵のモチーフをどのように表現するか: 残されたハルトマンの絵やタイトルから想像を膨らませる。ロシア風にするか、フランス風にするかも大事。
(c) 音楽的に如何に魅力あるものにするか: さまざまな楽器の特性を生かした演奏や、新しいモチーフの導入など。

私は、どのような組み合わせであれ、面白いと思います。例えば、ビドロの出だしをどうするか、とか第5プロムナードを省略するか否かといった こと も、その 演奏家の感性のあらわれであり、いろいろな試みをいつも面白く感じています。また、ピアノで表現できない部分を他の楽器でどのように表現するかも 面白く 思っています。

ところで、ムソルグスキーはピアノ譜にいくつかの異稿を残しています。また、細かな演奏指示がないのです。つまり、「あなたの感性に従って、 好き な方で演 奏してね。」とでも言っているよう で、演奏者の自由度やインスピレーションをかなり認めているというか、それを期待しているのではないかとも思えます。絵を見て、その感動を伝える とき、人 はいろいろな言葉遣いや表現を使います。それはその人それぞれの感性や生まれ育った背景に基づくものです。ハルトマンの絵にインスパイアされてム ソルグス キーが曲を書いたように、ムソルグスキーの原曲をきっかけに新しい演奏や編曲が生まれ、アニメーションまで生み出されているのを、きっとムソルグ スキーは あの世から楽しんで見ていると思います。


■2.吹奏楽曲 (1963年〜)

ラヴェル版の面白さは、管楽器の用法の妙にあります。例えば、第1プロムナードのトランペット・ファンファーレ、古城で流れるアルト サック スのメロ ディ、ビドロのテューバの迫力などなど。これを聴いていると、吹奏楽や金管楽器に向いた素材であると思えてきます。メジャーな編曲は、ハイン ズレー編 (1963年)、ハワース編(1977年)が双璧。ハインズレー編は木管なども含めた編成のためのアレンジで、フェネル指揮・東京佼成ウィン ドオーケスト ラの演奏がおすすめできます。一方、ハワース編は金管編成のしかも結構難度の高いアレンジです。強者そろいのご本家、フィリップ・ジョーン ズ・ブラス・ア ンサンブルの演奏とベネズエラ・ブラス・アンサンブルの演奏をおすすめします。

なお、ラヴェルの影響はあまりに大きいため、ラヴェル版そのものに聞こえるような編曲・演奏が多いのですが、こうした状況にあって、高 橋徹 版 (1999年)は異彩を放っています。レメンス音楽院楽団の演奏をおすすめします。

 / 展覧会の絵 / Pictures at an
                exhibition  / 展覧会の絵 / Pictures at an
                exhibition  / 展覧会の絵 / Pictures at
                an an exhibition Roost, Pictures at an exhibition
フェネル+東京佼成WO
ハインズレー版
PJBE の
ハワース版

ベ ネ ズエラ BEの
ハワース版

レ メ ンス音楽 院楽団の
高橋版



■3.オルガンとアコーディオン (1977年〜)

どちらも鍵盤楽器でありながら、打鍵のあとに音量を大きくできるため、自由度の高い楽器です。また、オルガン(=パイプオルガン)は、重厚な 音量 が持ち味 で和音を多用する「展覧会の絵」に向いていますし、アコーディオンは和音や早いパッセージなどを容易に演奏できる楽器です。こうしたことから、優 れた演奏 がいくつもあります。オルガンでは1977年のブラールによるブラール版、1998年のウィーブシュによるウィーブシュ版がおすすめできます。ア コーディ オンでは、ソロ、デュオ、トリオ、他の楽器との合奏などがありますが、1996年のクラッブ&ドローズヴォールのアコーディオン・デュオは必聴で しょう。 また、バヤン(=ロシア固有のアコーディオン)とバラライカ、ドムラ、ベースの合奏である Ma.Gr.Ig.Al. (マグリガル)のロシア民族楽器合奏版も私のおすすめです。

Blarr, Organ, Pictures at an exhibition Wiebusch, Organ, Pictures at an exhibition Crabb & Draugsvoll, Accordion Duo, Pictures at
                an exhibition Ma.Gr.Ig.Al., Pictures at an exhibition
ブラール
のオルガン版
ウィー ブシュ の
オルガン版

ク ラッブ&ド ローズヴォールの
アコーディオン・デュオ版
Ma.Gr.Ig.Al. の
ロシア民族楽器合奏版


■4.器楽曲

「展覧会の絵」の全曲を単一の楽器で弾くには、楽器個々の特性の問題(音域、音色、技法などの問題)もあって、時には無理を感じる演奏もあり ま す。こうし た中で、山下和仁のギター独奏版(1981年)は完成度が高く、世界に誇る名演奏だと思います。また、フルート合奏(1994年のピアチェーレ盤 など)や マンドリン合奏(1994年のアンサンブル・アメデオ盤など)もなかなかいいものがあります。

Yamashita, Guitar,
                Pictures at an exhibition Piacere, Flute, Pictures at an exhibition Ensamble Amedeo, Mandorin, Pictures at an
                exhibition
山下和仁の
ギターソロ版
ピ ア チェーレ の
フルート合奏版

ア ン サンブ ル・アメディオの
マンドリン合奏版

■5.ジャズとロック (1962年〜)

今でこそ、さまざまなジャンルの「展覧会の絵」の編曲がありますが、その先鞭をつけたのは、1962年のオールイン・ファーガスン (Allyn Ferguson)によるビッグバンド・ジャズ演奏といってよいでしょう。ジャズの音盤はあまり数が出ないためか、入手が難しいことが多いの ですが、この ファーガスンの音盤はLPでも再ブレスされ、CDにもなり、今やMP3での販売もされています。しかし、この後のジャズ演奏はあまりないよう です。単曲で の演奏はしばしばみつかるのですが、全曲にチャレンジすることはなかなかないのです。そうした中にあってシンセティック・ジャズのコーラル・ コンサートは おすすめ。また、最近、ドイツのジャズ界で次々と盤が出ていて注目です。

ロック盤なら、やはり、ELP(エマーソン・レイク&パーマー)。プログレッシブ・ロックの雄として有名なグループで、キーボードのキース・ エ マー ソンの嗜好からか、クラシックをロックにアレンジしたものが多くあります。1971年 のライブCD「展覧会の絵」はとりわけ成功した例であり、これをきっかけにロックもクラシックも聴くようになった人間は少なくないと思います。 なお、ドイツの実験ユニット、メコンデルタによるヘヴィ・メタル版も面白いのですが、原曲に忠実になろうとするばかりにややロックらしさが失 われ ているよ うに思います。

Allyn Ferguson, Pictures
                at an exhibition Choral Concert, Pictures at
                an exhibition ELP, Pictures at an exhibition  / 展覧会の絵 / Pictures at an exhibition
オールイン・ファーガスンの
ビッグバンド・ジャズ版
コー ラル・コ ンサートの
シンセティック・ジャズ版

ELP の
ロック版

冨 田 勲の
シンセサイザー版



■5.シンセサイザー (1974年〜)

「音楽は人の会話である」とムソルグスキーは語っており、このため、ムソルグスキーは生涯の多くをオペラと歌曲の作成に費やしていま す。 従って、 「展覧会の絵」は彼の作品群の中では余録のようなものかもしれません。しかし、冨田勲のシンセサイザー版を聴いていると、この「人の会話」の 具体化のよう に感じることがあります。そして、合成された音声でありながら、詩情性がよく出ています。このことは冨田勲以降の電子音楽を聴くようになっ て、むしろ本来 は無機的な音なのだと知らされるようになりました。 まだサンプリング技術がなかった時代ですから、ヴォーカルをフィーチャーした音声などは、すべて手作 業での合成でした。

なお、冨田勲は1966 年に手塚治虫の依頼で、アニメ版「展覧会の絵」のための管弦楽曲編曲を行っています。秋山和慶+東京交響楽団によって演奏されていますが、ア ニメにあわせ ることを意識してか、非常にコミカルに作り上げていて、これもおもしろいと思います。シンセサイザー版「展覧会の絵」のリリースは1974年 ですが、この 1966年版を拡大してよりコミカルに雄大にした感じになっています。

冨田勲は「月の光」、「火の鳥」、「惑星」、「ダフニスとクロエ」、「大峡 谷」などさまざまなクラシックを題材としてとりあげていきましたが、中学生だった私は冨田音楽の虜になり、冨田勲のLPすべてを買いそろえ、 それを中心に 本来のクラシックも聴くようになりました。私にとって大きな音楽経験でした。


■6.これからの希望 / 展覧会の絵 / Pictures at an
        an exhibition

個人的に実現してほしいのは、ハーブ・オオタさんのウクレレ版。ハーブ・オータさんにはバッハ曲をウクレレ・アレンジした名盤がありますが、 これ を聴い て、そのシンプル化の闊達さや表現力にたまげました。もう、相当なお年だとは思いますが、チャレンジしてくれるとうれしいです。

それから、ちょっと構成的に難しいかもしれませんがコーラス版。しかも無伴奏か簡単なピアノ伴奏だけで混声合唱の本格的なものをできな いで しょう か。歌詞はい りません。アレンジも人の声の特性にあわせた方がいいでしょう。神谷百子のマリンバ版(山田武彦)のような編曲がいいように思っています。

いずれにせよ、ELPが示したような大胆で自由な発想のアレンジが私は好きです。場合によっては、曲の入れ替えも含めたアレンジも面白 いと 思ってい ます。 「展覧会の絵」はそういう自由な遊びが許されてる曲なのだと思っています。


とびら へ 前へ  次へ
↑ トップへ