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荘厳行進曲「カルスの 奪還」
Triumphal march "Capture of Kars"

■1.概要

この曲は、1878年に起こったロシア・トルコ戦争(露土戦争)にロシアが勝利して、アルメニアの歴史ある都市、カルスを奪還したことを記念 した作品。ま た、 例に漏れず、ムソルグスキー自身によって何度も作り直された曲でもある。1868年に原曲が作られたが、後に、1872年ではバレエ組曲「ム ラダ」 に組み込まれ、1880年に「荘厳行進曲」として作り直された。トルコの軍楽隊の音楽がモチーフとして使われたため「トルコ行進曲」とも言わ れるが、同年 10月に露土戦争に勝利して「カルスの奪還」と命名された。

ロシアの勝利を讃えた行進曲だが、コーカサス民謡とトルコ軍楽隊の音楽が対比されるように用いられている。印象的な旋律で、コンサートなどで 用いると結構 映える曲だ。作曲、改訂の変遷は下記のとおり。

1872年 バレエ組曲「ムラダ」で "The procession of the princes and priests" に改訂。
1880年 大帝アレキサンダー2世の戴冠25周年を記念して「荘厳行進曲」として改訂。
同10月
露土戦争に勝利したので、「カルスの奪還」と改名。


■2.アルメニアとカルスの悲劇

アルメニアは古くから栄えた国で、キリスト教を世界で最初に国教と定めた国(301年)、ノアの箱船が着地したアララト山のある国(現 在はアララト 山 はトルコ領)としても有名。このアルメニア王国の首都として 9〜10世紀に栄えたのがカルスであり、東西交易路の幹線上にあって繁栄した。キリスト教国 ではあったが、交易都市の常として、この頃のカルスやアルメニアは、さまざまな民族・文化・宗教が仲良く住まう街であり、そうした他国の ものに対して寛容 な地域であったはずである。しかし、ロシアとトルコの狭間にあることが災いし、16世紀にはオスマン帝国、19世紀以降は帝政ロシア、第 1次世界大戦後は トルコ共和国の支配を受け、アルメニア人自身による自治は侵され続けた。

この曲の作られた頃は、ロシアとトルコがアルメニア地域の争奪をまさに行っていた時代。そして、1880年に露土戦争でロシアがトルコ からカルスを 奪ったことが、ムソルグスキーの「カルスの奪還」という楽曲になった。ロシア人からするとアルメニア人をトルコから救ったという意識が あったのだと思う。 しかし、この「カルスの奪還」が後の凄惨な歴史のきっかけとなることをムソルグスキーは知らずにいた。

1915-16年にトルコ領土内のアルメニア人への激しい追放・迫害が行われた。これにより、150万人のアルメニア人が殺され、80 万人が難民と なったという。すさまじい殺戮だ。1918年、アルメニアは共和国として独立するが、1920年、ロシア軍がカルスから撤退すると、今度 はアルメニアの軍 事勢力がアルメニア地域に住むイスラム教徒の虐殺を行ってしまう。命を命であがなってしまった。殺戮が殺戮を生んだのだ。だが、殺戮はま だ続く。第1次世 界大戦後、トルコがアルメニアを支配するようになるが、この時代にも多くのアルメニア人が虐殺されてしまうのだ。

アルメニアは、その後、ソビエト連邦共和国として生き延び、1991年のソピエト崩壊を機会に真の独立を果たした。現在の首都は エレバンである。しかし、今もなお隣国のトルコやアゼルバイジャンとは敵対関係にある。参考になるサイトは下記のとおり。

Samovar の旅   日本ア ルメニア協会   外務省HP−アルメニア   ア ルメニア人虐殺問題 - Wikipedia


■3.CDについて

リムスキーコルサコフ版を用いて、下記のような録音がある。アバドとスヴェトラーノフは結構い いと思う。

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                展覧会の絵 / Pictures at an exhibition
 / 展覧会の絵 / Pictures at an exhibition
Evgeni Svetlanov &
                  USSR S. O./ 展覧会の絵 / Pictures at an exhibition
Jukka-Pekka Saraste
w/Toronto S. O.
Claudio Abbado
w/London S. O.
Evgeny Svetralnov
w/USSR State Academic S.
Grammofon BIS-CD-905
RCA LCB116
Melodiya MEL CD 10 02034
Sweden 1997/8
London 1981
1974


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