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休八写真館大判カメラ室(4x5判)

Hansa Field 69 II



Hanza Field 69 IIフィールドカ メラは大判(おおばん)用が普通だが、これは中判(ちゅうばん)専用に作られている。このため、フィールドカメラとしては圧倒的に小 型で軽量だ。

大判の4x5(シノゴ)と比べると、中判の6x9(ロクキュー)の撮像面積は1/2.6程度と小さくなるが、35mm判と比べれば約4.2倍 も大きい。ま た、大判レンズを使うのだが、撮像が中判サイズであるため、要求するイメージサークルも小さくなるという メリットが生じる(*1)。これは、多くの大判レンズでイメージサークルに余 裕が出来ることを意味していて、アオリを楽しみやすいということになる(*2)。さらには、中判専用機であるが、4x5アダプタや、35mmカメラ用アダ プタなども用意されていて、私にとっては、大判カメラのガイド役となったカメラである。

*1 レンズの真ん中付近だけを使っているということでもあり、レンズの性能をフルに使っていないという見方をすればデメリットともいえる。
*2 アオリを楽しめるには、本体のシフト・ティルト・スウィング・ライズ・フォールなどの可動域にも左右されるので、全く思い通りにというわけではない。ま た、後述のように使用できるレンズの大きさに制約がある。


大判レンズは意外にコンパクトである。とりわけ望遠系などは、35mm判や中 判の長玉と比べ ると、びっくりするほど小さく納まっている。これは、蛇腹の繰り出しが鏡筒の代わりをするためで、レンズ群のみをまとめるような カタチになるからである。そして、こうした光学系ゆえに、ライズ、 フォール、シフト、 ティルト、スイングなどのアオリ撮影が出来ることになる。鏡に写る人の視線で撮ったかのような写真、歪みのない商品写真など、映画や広告にはさま ざまな光学トリックが使われているが、それをこのカメラでも楽しめるのである。

ただし、蛇腹の繰り出しは比較的短いため、装着できるレンズは、 47mm から 180mm のものに限られる。また、レン ズボードは、かなり小 型であるため(専用 サイズなので自作)、レンズ シャッターは、 #00、#0、#1 のものに限られる(実は、#1はかなり苦しい)。さらに、後玉のサイズにも制限があって、対称型など後玉が大きいレンズは要注意で、後玉の最大直径部が 48mm以内に納まらないと装着できない。ざっくりまとめる と、比較的 小型のレンズ、焦点の短いレンズ、を使うことになる。イメージサークルは、6x9 でも101mm あればよく、4x5 の 162mm よりもだいぶ小さいので、装着さえできれば、大概の大判用レンズでアオ リを楽しめることになる。

箱 は朱利桜材、金属部分 は真鍮のクローム メッキ仕上げ。タチハラやエボニーなどのウッ ド・カメラと比べると簡素だが、実用的だと思う。撮影には三脚が必須だが、小型軽量なの で、35mmカメラ用などの中軽量のもので足りる。露出 計、レリーズ、冠 布(かんぷ)、ピントルーペ、交換レンズ数本なども携行することになるので、トータルではやはり結構な荷物だが、それでも普通の大判フィールドカメラの携 行と比べれば全体に軽量である。(撮影行での持ち物リストはこちら

大判であれば、フィルム枚数に応じたフィルムホルダーを、中判ならば、ロールフィルムバックをひとつ携行す る。フィル ムバックを嵌めるところは、国際規格の形状をしていて、マミヤやホースマンの製品が使える。ま た、この取り付け部はタテヨコ差し替えできるようになっているが、とりはずしたところに4x5アダプタを嵌めれば、大判撮影が楽しめる。

撮影地では、まず三脚を立て て、カメラを取り付け、前蓋を開けて、前枠(レンズボード付き)を引き出す。画角を替えたければ、ここでレンズを ボードごと交換する。露出計で明るさを測り、絞りとシャッター速度を決める。それから、冠布をかぶり、レンズボードの位置を動かして、フォーカスを合わせる。バルブやタイムで絞りを開きっぱなしにしての作業だが、コパルの レンズシャッターならば、開放レバー(プレスフォーカスレバー)があって、とても便利。アオリを入れる時はここで像を見ながらアオリをいれて いく。ともあれ、フォーカスが定まったら、フ レーミングを合わせ直す。場合によっては、三脚のエレベータや向きも動かしながらの作業となる。アオリを入れるとフォーカスが写真の上と下、左右などで 違ってくるの で、ここでの作業がとても大事だ。大体、ここまでで写真の良否が決まってしまうのである。

暗い中に浮かび上がる像は肉眼で見ていた直前の風景よ りもずっと明るく鮮明で、まるでちがった美 しい風景に見える。天地左右逆像に なるのでカメラ・オブスキュ ラのようだが、デジカメの液晶画面を見ているような既視感もある。4x5アダプタで大判撮影をするようになると、冠布の中の映像はさらに魅力を増し、
映 画 を見ているような錯覚に陥(おちい)る。

露出を再チェックして、絞りとシャッ ター速度を再確認。中判ならフィルムを巻き上げたフィルムバックを取り付ける。大判ならばフィルムホルダーを取り付ける。遮光板を静かに 抜き 取る。シャッターチャージをする。息を止めてレリーズを切る。カシャッ。1枚撮影完了だ。

ピントグラスに映る像に魅入られる。だんだんと大判の魅力に引き込まれていく。

追記1: ハ ンザ・フィールド69 (I 型) は、中判専用機でシリーズ最小・最軽量だったが、フィルムバックの縦位置装着ができなかった。II 型になって、やや大きくなったが、縦・横いずれの装着も可能になり、4x5 用アダプタも用意され、アオリの可動幅も改善された。III 型はII 型とほぼ同じサイズだが、前枠付近の蛇腹部が袋蛇腹になって、47mmなどの広角レンズでのアオリが可能になっ た。レンズボードはアルミ製で、片面は無垢(光沢)、もう片面が黒い樹脂でコートされている。黒い面を表にした方が見栄えがするが、内部反射をさける効果 を考えて、私は黒い面を内側にして使っている。

追記2: ハ ンザは近江屋写真用品のブランド名。キャノン草創期のカメラを販売していた老舗でもあり(=ハンザ・キャノン)、フジフィルムの4大特約店のひとつでも あった。フィルム需要の落ち込みの中、経営を縮小せざるを得なくなり、2004年10月に解散した。

追記3: ワイズ扱いのワイズ69ハンディや、ヨコギ69 は、このハンザ・フィールド69 の箱部分を強化改良したもののように見える。専用の4x5アダプタもよく似たカタチだ。前二者は横木正夫さんの製作であったが、ハンザ・フィールド69も 同じく横木さんの製作だったのかもしれない。中判用のフィールドカメラには、このほか、フォトックス 製の  Photox 6789、Photox wide L6789 などがあった。

追記4: 大判は、インチ表示であり、4x5 (シノゴ)、5x7(ゴシチ)、8x10(バイテン)などはいずれもセンチにするとかなりの大きさ(1インチ=2.54センチ)。これに対して、中判はセ ンチ表示であって、6x9(ロ クキュー)、6x7(ロクシチ)、6x6(ロクロク)などは、数字は大判よりも大きいが、単位を揃えると大判よりも小さくなる。

追記5: 4x5アダプターもあって、シートフィルムフォル ダーを使う普通の大判撮影ができる。大判専用のフィールドカメラと比べるとレンズの制約があるが、気軽に大判を楽しめるのもイイ と思う。ちなみにシートフィルムの現像は、Taco method (=フィルムの乳剤面を内側にして、輪ゴムで筒状にし、現像タンク内で現像する)で行っている。くわしくはこちら


発売年
1995年7月  愛着度★★★★
型式
中判フィルム/木製 フィールドカ メ ラ
前枠部
レ ンズ ボード
62x75mmの専用サ イズ。
対応レンズ
47-180mm (一応の目安。後玉は直径 48mm以内)
対応シャッター
#00, #0, #1 (#1は無理なことが多い。#0 が無難 ) 
アオリ機構 ライ ズ 20mm、フォール20mm、シ フト左右各20mm、ティ ルト前10°後20°、ス イング左右各15°
後枠部
ファ イ ンダー
ピントグラス。縦・横の 配置可 能。
フィ ル ムバック
国際規格に対応。ホース マンやマ ミヤRBの120用フィルムバックが使用できる。
このほか、4x5用アダプタや35mm判用アダプタも取り付けられる。
アオリ機構 ティ ルト前随 意、後20°
フラン ジバック 40-220mm
大き さ・重さ
w150mm x h160mm x d160mm (収納時w137mm x h132mm x d70mm)
900g (本体のみ)、ホースマン 6x9 フィルムバッグ 420g、4x5アダプター 227g
参考 web
ワイズ「大判カメラの全て」: http://www.ohban4x5.com/
ワイズクリエイト(大判カメラ専門店): http://www.yscreate.co.jp/shop1.html
参考書 籍
玉田勇 「大判写真入門」 写真工業 2007 (改訂7版)
玄光社Mook 「ビューカメラマニュアル」 玄光社 2000 (5版)

<付記:組立手順>

1.三脚に取り付ける。
2.蓋をあけ、ノッチにかかるまで蓋を引き出す。
3.前枠部を引き出して、前枠基部に装着。収納時はフォール状態になっているので、正しい位置に戻す。
4.レンズボード(レンズの付いた)をはめる、もしくは付け替える。
5.フランジバックを考えて前枠部の位置を前後させる。

<付記:撮影手順>

1.露出を調 べておく。レンズの絞りはフォーカス合わせのために開放にしておく。
2.プレスフォーカスレバーでシャッター羽根を開く。
3.ピントグラスを見ながら、フォーカスを合わせる。
4.レンズの絞りとシャッター速度を合わせる。
5.シャッターチャージする。
6.ピントグラス部にフィルムバックを装着する。フィルムを巻き上げる。遮光板を引き抜く。
7.シャッターを押す。


Hansa Field 69 II/ ハンザ フィールド 69 II
              / 鋸山 日本寺 大仏

千葉県鋸南町(きょなんちょう)・鋸山(のこぎりやま)にある日本寺(にほんじ)の大仏。高さ 31m もある。
アオリをいれて 4x5 で撮影。大判ならではの質感と迫力。東日本大震災から2年。祈りながらの撮影行。
Symmer-S 180mm F6.5 / Neopan 100 Acros



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