© 1996-1997, Kyu-hachi TABATA
ヘルシンキだより #18     1997- 9-22 記

この頃の朝7時の気温は 4-7度、日中でも 10-17度です。まず、9月はじめから白樺やシダレカンバは黄葉しはじめ、9月14日ぐらいからノルウェーカエデが紅葉しはじめました。カ エデの紅葉 は、一旦始まると、カンバの類よりも色変わりが早く鮮やかです。また、ピヒラヤ(=ナナカマド)の葉も赤く変わりはじめました。ベリーの季節 は終焉、キノ コの季節です。シジュウカラの姿を道すがら、よく見る様になりました。

大学へは、Tシャツに長袖シャツ、これに革ジャンをはおって行きます。雨がよく降るので傘は必携です。ラボでは、Tシャツの上に白衣という格 好が日 常です。白衣着用は苦手だったのですが、支給された白衣が着心地がよく、また機能的にできていて愛用するようになりました。


18-1 フラットの改装工事が終わる

4月末〜: 8階だてのアパートに足場を組み、連日、外壁をこわしてゆきます。ハンマーによる手作業で埃まみれの重労働。中に住んでいる者にとっても結構 な音と振動で す。壁は魔法瓶のように2重になっていて間に石綿のシートがはいっています。今回の改装はこの石綿の交換が目的のようで、外壁と石綿がきれい にはがされま した。壊された外壁や石綿などの瓦礫がすべてとりのぞかれると足場もはずされました。

7月初〜: 外壁の接地部分だったところを深く掘り下げ、土台部分を新しくコンクリートで打ち直します。そして、大型の作業用ゴンドラ(高層ビルの窓ふき などに利用さ れているタイプ)を4台とりつけて作業再開。新しい石綿を張り付け、スレート様の板を打ち付けて行きます。

8月初〜: 以前の外壁はコンクリの吹付けでしたが、今回は高さ10センチほどのブロックを積み上げて行きます。1段ごとにレベルをとりながらの丁寧な手 作業でした。 みるみるうちにブロック壁ができ、9月初めにはゴンドラがはずされました。そして、アパートの入り口部分をリニューアル。レンガ敷きになり、 おしゃれな外 灯がつきました。

夏の間は、私達のアパートに限らず、あちらこちらで工事をみかけました。研究所でも、図書館(情報センター Infokesukus)新設のための基礎工事がありましたし、周辺道路では、長い距離にわたって下水管様のパイプの敷設工事がありました。

18-2 日本語補習校の遠足(9月6日)

カウッパトリ(中央市場)の港に朝 9時40分に集合し、船でコルケアサーリのヘルシンキ動物園へ。子供達 26人を教師 6名で引率し、運営委員 6名がサポートしました。天気がすぐれずやや寒い日でしたが、雨には降られずにすみました。また、涼しいせいか動物達もよく動いておりまし た。子供達の課 題は動物達のスケッチと簡単なオリエンテーリングです。

私は幼児部について歩いたのですが、面白かったのが、彼らの個性。例えばウサギを描くにしても、綾子は1匹だけを描くし、テウボくんは全部の 匹数を 数えてすべて描こうとするし、カロちゃんは単色でしか描かないし、茜ちゃんやよしたかくんは、見たものを忠実に描こうとします。また、それぞ れ隣の子が何 を描いているのか、どんな風に描いているのかにほとんど関心がなく、全く自分本位で描いています。いろいろ訊ねると自分なりの考えや主張があ り、これも面 白いものでした。

18-3 いつもの森からヴァンター川へ(9月7日)

日曜日です。いつもの森を抜けて、少しばかり遠くまで歩きました。綾子が幼稚園で教えてもらってきたコースです。ヴァンター川を渡り、さらに 森を抜 け、再びヴァンター川の下流へ。1 km ほどの行程です。そこは小さな公園+遊泳場で、シャワーや更衣室、高さ 5 m ぐらいの飛び込み台もありました。

森には、時々、林檎の木が自生しており実がついています。戻り道でその実をとることが出 来ました。 かじるとほどよいやわらかさ。酸味はあまり無く、ほんのり甘く、わずかに渋味が口に残ります。子供の頃、もみがらの中から掘り出してかじった 林檎を思い出 しました。ほろりとしました。

途中ではいろいろなキノコをみつけることができました。なかでも、ベニテングダケ Punaka"rpa"ssieni / Fly agaric は圧巻。童話などの挿絵に出てくる鮮やかな赤に白い斑点のカサをもった大型のキノコです。その有毒成分からは、有名な神経毒アマニチン Amanitin やムスカリン Muscarin などが発見され、精製されており、脳・神経生物医学に相当な貢献をしています。また、これら神経毒の名は、その学名 Amanita muscaria にちなんだものです。精製にはトン規模の試料が必要だったはずですが、その気になればすぐに集められそうなぐらい、あちらこちらでみかけるこ とができまし た。

18-4 野バラとハマナシ

夏の間、さまざまな種類の野バラがいっせいに咲き続けました。特に真っ白や濃いピンクま たは薄いピ ンクなどの花を次々と咲かせ続けたハマナシ(=はまなす)は見事でした。このハマナシ、アパートや家の生け垣などに使われ、遠目にはツツジや サザンカのよ うにも見えました。そして街のあちらこちらで見る事ができました。

秋になり、さすがに花も途切れてきましたが、今度は花の数だけ実がついて、それが赤や黒 に色付き 鮮やかです。熟してくるとやや透明がかってきて、いいにおいがします。食べられると聞いて、ハマナシの赤い親指の先ほどもある実をかじってみ ました。サク ランボと桃を思わせる味です。鳥達も好きな様で、熟れた先から食べて行きます。

18-5 キノコ狩り(9月21日)

茜ちゃんのお母さん(=前園さん)から教えてもらって、専門家同伴のキノコ狩りに行きました。場所は Vantaa の Vestrantie というところ。30人ほどの中に、私達日本人家族がまざってキノコ狩りをしました。天気はややくずれぎみでしたが、キノコにはいい天気。あち らこちらにさ まざまなキノコが顔を出していました。

キノコ狩りの用意は、小型のナイフ(できればブラシがついているキノコ用ナイフがよ い)、篭(木の 薄板で編んだもの)、ゴム長靴(湿地を行くので)という3点セット。これに図鑑、地図、コンパスがあれば完璧です。キノコの判別は、専門家に 従うのが第1 ですが、第2には口に少し含み、刺激があったり、不味ければやめる(これは、日本でもよく聞く方法)。第3はナイフで少し傷をつけ、ミルク状 の汁が出た ら、安全なキノコと判定するという方法。初耳でしたから、この国に生えるキノコに限っての判別法かもしれません。

Kantarelli (Keltavahvero) という黄色いキノコ、Tatti と呼ぶ大型のキノコ、Mustatorvisieni という黒いキノコ、Seitikit という白いキノコなどが食べられる主たるキノコのようでしたが、私達の眼を惹いたのは、色や形の面白い、例えば、Keltahaarakas というサンゴタケ Coral fungas の仲間や、つつくと煙の様に胞子を噴き出す Ka"nsa"tuhkelo というホコリタケ Puffball の仲間などでした。

ガイドの二人はキノコに詳しく、親切でした。私達がもっぱら変わったキノコばかりを手に して聞きに ゆくものですから、食べられるキノコをたまたまもってゆくと「おめでとう!」といってくれたり、「これはおいしいのですよ。どうぞ」とキノコ をわけてくれ たりしました。また倒木についていたサルノコシカケが接ぎ木のように水平にカサを出しなおしているのをみつけて、教えてくれたりしました。

森の中には、針葉樹の落ち葉を 60-100cm にも積み上げた蟻塚があり、最初は大変驚きました。キツツキの仲間やカエル(トノサマガエルの仲間 Rana temporaria とヒキガエル Bufo bufo)も見る事ができました。また大きなサルノコシカケがあり、4歳のまーちゃんに水を向けると「ボク、座りたい」。期待通り、椅子がわ りになりまし た。子供達は、4時間近く歩きましたが、楽しんでくれた様子。私も楽しい1日となりました。

18-6 この頃の同室メンバー

私の机のある部屋は、最初、Anne, Hyun-jung, Johanna そして私でしたが、前二人が抜け、代わりに Hayato, David が入りました。David と私が静かなのを好むこともあり、部屋の雰囲気が変わりました。

また、土日は完全休ですが、いつも数人はラボに顔を出します。若い技官なども出て来ていることがあります。休みの日は機械や実験机が空いてお り、気 持ちよく感じる事があります。

18-7 Irma のラボで思うこと

技官がいるので:仕事を手伝ってもらえる。仕事分担がはっきりしており、試薬やメディウム類はほとんどを技官が作るし、共通したバッファや固 定液な どはすべて Medium Kitchen で入手できる。しかし、ミクロトームなどの機械は技官の使用が優先なので、時には不便。試薬のストックが少なくプロトコールの変更がやりにく い。

乾燥しているので:コンタミしにくく培養が楽。Dry up が早い。冷凍庫に霜があまりつかないので開けっ放しで作業しても平気。総じてラボワークが楽だが、手が荒れやすく、有機溶媒などの鼻への刺激 も強い。ドラ フトと手袋の使用頻度が高くなる。

PCの利用が進んでいるので:Irma や事務からの連絡はほとんど電子メール。顕微鏡写真もほとんどビデオカメラ経由で直接PC画像。論文の検索、試薬の検索などもPCで。ただ し、サーバーが ダウンするとプリンターも使えないお手上げ状態。

学生は: Irma からお金をもらっているのでよく働く。英語がしゃべれるので国際学会などへもどんどん行く。学会に行く場合は、Irma からか Irma の推薦で何かのグラントから旅費をもらうことが多い。学会から帰って来たら、ミーティングで最新情報を報告するデューティがある。

Irma がいるので:優秀でいい人間が集まってくる。情報も集まる。お金も集まる。今年は大きなグラントがあたり、技官が一人増え、部屋がひとつ増え ました。今 月、さらに部屋が増えるとのことです。当然、技官や部屋を譲るラボもあるわけで、このあたり、シビアなものを感じます。

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