© 1996-1997, Kyu-hachi TABATA
ヘルシンキだより #3 1996-11-24 記
こちらは相変わらず、毎日の様に雨が降っています。まだ雪は1回しか経験していません。外気温は寒くても
4度、いつもは
8度ぐらいです。室内は大体、22度から25度ぐらいに保たれています。こちらの人達は、多分日本人以上に天気のことを話題にします。また精神状態がかな
り天気に支配されていて、天気の悪い日は妙に不機嫌だったりします。
降雨が多いのと矛盾するようですが、空気は乾燥していて、始めはのどがよく乾きました。空気が乾燥している
と、手が荒れやすい、けがが治りにくいとのことですが、多分、そのとおりなのでしょう。日本ではほとんど素手でやっていた仕事も気をつけ
ないとすぐに手が腫れたり、荒れたりするようです。先日は HRP の発色に使う AEC
で手が真っ赤に腫れたので驚きました。すぐに水で洗浄し、腫れを治しました。用心しようと思います。
3-1 Tabby の周辺
Tabby と関連が考えられているのは、
a. 転写因子 Lef1 と
Msx-1: KOマウスの歯胚発生停止時期からの推測です。
b. EGF と EGF リセプター:
Tabbyマウスの Pad にEGFを注射投与してやると汗腺の発生がレスキューできるという実験結果があります。
c. βカテニン、E-カドヘリン: LEF-1, EGF
レセプターとの関連が知られています。また、βカテニンはカドヘリンとの結合だけでなく、核内への移行が知られており、転写因子とし
ての機能が予想され始めています。
で、私の仕事は、これらの因子と Tabby
の関りを探ることです。ヒスの仕事をしながら、器官培養の仕事へと移って行く予定です。またヒスの仕事は免疫染色をしながらラボの様子を覚え、in
situ を覚えて行くという予定です。
3-2 こちらのセミナー形式
月曜朝9時からテスレフグループだけのミーティングがあります。ここでは、仕事の進行状況やトラブルなどの
報告があり、お互いにアドバイスしたりします。
木曜日は朝8時半から雑誌会に相当するものがあります。これは、発生グループ(歯をやっているテスレフグ
ループだけでなく、腎発生のグループ、Drosophila
の初期発生グループがはいった大きなもの)で行っていて、当番の人は2本から5本ぐらいの関連論文を紹介してレビューします。セミナー
シートにあたるものはなく、すべて OHP での紹介になります。
いずれのセミナーもすべて英語で行います。誰もが自由に英語を使ってディスカッションしているのはすごいな
あと思います。月曜のミーティングには技官も参加しますが、彼女達も結構、達者な英語です。私はまだフォローするので精一杯というところ
ですが、いずれ私も HGF
の仕事をどちらかのセミナーで話すことになると思います。免疫染色の方法、歯胚の培養の方法、細胞培養の方法などを上手に盛り込んで話をしたいと考えてい
ます。
3-3 英語とフィンランド語のレッスン
こちらでは、誰でもかなりの英語を話します。フィンランド語は日本語と発音体系が似ており、このためか聞き
取りやすい英語であることも手伝って、聞く分は結構慣れて来ました。話すほうは、まだひどい状態でして、技官の人達のための英語レッスン
に先々週から加えてもらいました。フィンランド語も少しは話せないといろいろと不自由でして、これも先々週からレッスンに入りました。ど
ちらも週1回、1時間半、研究所の中の一室で行われます。ありがたいことにフリーです。
ヘルシンキには北欧で一番品そろえがいいというアカデミア書店というのがあります。ここに行きますとフィン
ランドの人達のための英語の教科書、外国人のためのフィンランド語の教科書が何十種類もおいてあります。語学学習のテキストがよくできて
いるのには感心します。また、市内には古本屋や古着屋、古道具屋が相当数あり、いい辞書を安く入手できました。
3-4 ラボのPC環境
ラボではほとんどがIBM互換機でウィンドウズマシンです。ただし、何台かはマックです。やはり、ちょっと
前まではマックだったとのことで、今でもこれがいいと言う人がいるのと、画像のとりこみに利用されています。
Irma
からの事務連絡、秘書や事務からの連絡はすべて電子メールです。誰もが毎日、電子メールをチェックしています。テスレフグループには、Thomas
Aberg と Pekka Nieminen
というコンピュータに詳しい男がいて、彼らがいろいろなシステムを組んでくれています。以下、それぞれの組んだ系を紹介します。
3-5 顕微鏡画像のコンピュータ処理
メインの顕微鏡はオリンパスのBXです。これにビクターのCCDカメラ(像をデジタル信号に換えるカメラ。
ビデオカメラのようなもの)がついており、ケーブルでマックのビデオ端子に直結しています。ソフトはNIHイメージ(有名なフリーソフ
ト)を使っており、画像情報はZIPディスクやMOに保存します。
このシステムを使ってどのようなことをしているかというと、切片の写真を撮る代わりにすべて画像データとし
て情報をとりこみ、染色パターンを重ねあわせたり、位相差写真と染色写真を組み合わせたりして、主に2色(黒と赤)の像として出力しま
す。これは、結構便利でしかも鮮明です。Irma
のラボでは、写真はほとんどとることがなくなった、対比染色もあまりしないとのことでした。
(追記)PCもマックもすべてネットにつながっていることから、実際にはマックで取り込んだ画像はスクラッ
チHDにセーブしておき、PCで動くアドビフォトショップやキャンバス上で加工します。そして、それをPCフォーマットのZIPにセーブ
するのが普通です。ZIPがいっぱいになるとCD−R(書込み可能なCD)にセーブしなおします。
3-6 ToothBase について
Pekka Nieminen
が作った歯胚発生に関するデータベースがあります。インターネット上で公開しておりますので、ぜひご覧ください。ちょっとすごいデータ量(画像も豊富)
で、それを実にうまくリンクさせて検索しやすく作っています。すごいプログラマがいたものです。しかも歯胚発生に関するデータの収集や整
理もすごいと思います。データ入力は Maija Pekkanen
が主にやっています。ぜひぜひご覧ください。ネットスケープなどで、アクセスできます。
http://honeybee.helsinki.fi/toothexp
HGFについては私達の論文の内容が紹介されています。しかし、画像がなく、ちょっとインパクトにかける
ページになっているのが残念です。多分、論文などからは著作権にかかるため画像をコピーできないからだと思います。