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2022/06/30 |
写真の面白いところは、芸術、思想、記録、報道など多くの
ジャンルを担っていることだ。 瞬間を切り取ることによって、 その一瞬の前後や状況を見る人に想像させる。 写真を撮る人が何を見ているか、何を考えているかも伝わってくる。 しばしば、写真は詩的なもの、幻想的なもの、耽美なものにもなりえるが、 「現実を写したもの」という厳然たる事実は変わらない。 若い頃の私の心を大きく揺らした写真集、 今でもその時の気持ちになれる写真集を5冊紹介する。 (東京医科歯科大・新入生向け読書案内冊子『邂逅』2018 年度版の掲載記事 に加筆・修正) |
福島菊次郎 『戦争がはじまる -福島菊次郎全仕事集-』(社会評論社, 1987) 大学生の時に手にした本。福島さんは、広島の被爆者たち、 民族差別に苦しむ人々、成田闘争などの取材をしながら、強烈な写真を 次々と発表したジャーナリスト。 2015年、94歳で亡くなったが、その直前まで東日本大震災後の福島を中心に取材活動をしてい た。見たものをどう残すか、どう世に出すか。 |
Lennart Nilsson “A Child Is Born”(Faber&Faber, 1977) ニルソンは20世紀を代表する写 真家のひとり。この本は若者向けの一般書の体裁であるが、ヒト胎児の胎内での様子をとらえた貴重な写真が続く。 とりわけ、指を吸う胎児の写真は有名。 医学写真の多くは、感情の入る余地のないもので、不気味でさえある。だが、彼の写真には美しさがあ り、生命の尊厳が感じられた。高校2年生の夏、初めて買った洋書。私の人生を決めた一冊。(こちらでも紹介) |
星野道夫
『星野道夫の旅』(朝日新聞社, 2016)日本国内で、ネイチャー・フォトというジャンルを切り開いたのが、1980年代の動物・博物学の啓蒙誌「アニマ」とそこで活躍し た写真家たち。 中でも、ひときわ素晴らしかったのが星野さんのアラスカの写真。そのベストセレクションといえるのがこ の没後20年展の図録。文筆もすぐれていたが、やはり彼は写真家であったと思う。 |
藤原新也 『メメント・モリ−死を想え』(情報センター出版局, 1983) ガンジスのほとりで死んだ人が焼かれて流されていく。カラスがそれをついばむ。イヌたちがそれをひきちぎる。 ピンボケや手ぶれの 写真もある。宵闇に浮かぶ赤々とした炎や暗い人影。藤 原さんのつぶやきのようなキャプションも強烈だ。キャンディッド・フォトの 神髄。 生や死は何かと問いかける一冊。 |
『アトムの時代』(美 術出版社, 1994) 一冊すべてが、原 爆や水爆の爆発の瞬間とキノコ雲の写 真だけで構成されている。記録写真なので、そこには情感も何もない。いかに多くの原水爆実験が行われたか。いかに大きなエネル ギーが放出されたか。どれだけの生命を奪ったか。 しかし、 ページを進めるうちに「原子の光」の美しさに魅了されそうになる。人智を超えた領域を認知するに至る。 |
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