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ヴィクトル・ハルトマ ン
About Victor A. Hartmann


■1.ハルトマンVictor Hartmann

ヴィクトル・アレキサンドローヴィチ・ハルトマン*(
1834-1873)は、ロシアのデザイン画家。スターソフにその才能を見いだされた建築家でもあり、ムソル グスキーと引き合わせたのもスターソフでる。

ムソルグスキーの5才年長。もっともよき友人でもあったが、39才で急逝。その遺作展をモチーフに「展覧会 の絵」が作曲される。


* Виктор Александрович Гартман / Viktor Alexandrovich Hartmann

1834 年
5月5日(ロシア暦4月23日)、医師の子として生まれ る。
1838 年 両親と死別。以後、叔母に育てられる。4歳。
1846 年 鉱業学校に入学。12歳。
1852 年 ペテルブルグの美術アカデミーに入学。建築学とデザインを 学び始める。 18歳
1860 年 同校を卒業。この頃、スターソフと出会う。26歳
1862 年 公共図書館のデザインで金メダル。28歳
1864 年 11歳年下のアデルと二人でヨーロッパ留学に出発。二人は ポーランドの ベ ラストックとい う街で結婚式。その後、イタリアのミラノ、ナポリ、ローマに滞在。ドイツ、イギリスを 経て、フランスへ。
パリに逗留しつつ、オルレアン、リモージュ、アルル、マルセイユなどフ ランス各地を訪ねる。
1868 年 帰国。
1869 年 キエフの門再建のためのコンテストに出品。
1870 年 スターソフの主催するパーティでムソルグスキーと出会う。36歳

プーシキンの叙事詩「ルスランとリュドミラ」のオペラ化に あたり、舞台 装置や衣装をデザインする。
これにより、ハルトマンの写真や絵がプーシキン博物館にも所蔵されている。
1873 年 8月4日(ロシア暦7月23日)モスクワ近郊のキレーボで死去。死因は動脈瘤。享年 39歳。
1874 年 2月、スターソフらによって遺作展が開かれる。7月4日 (ロシア暦6月 22日)、ムソルグス キーが「展覧会の絵」を完成。

注)1918年以前ではロシア暦が使われています。日付が西暦より12日遅れており、ロシア暦+12日=西暦 という関係で す。


■2.ハルトマンの作品

ロシア風(スラブ風)のデザインや彩色、文化を好み、モチーフを重視した。建築や服飾のデザイン、ロシアの伝承にもとづくファンタジックな絵 画などを残し ている。遺作 展では400点近くが展示されたと言われているが、多くは散逸している。

「展覧会の絵」のモチーフとして知られていた絵は6つあり(次項★印)、1991年12月1日放送のNHK番組「革命に消えた絵画−追跡ムソ ルグスキー展 覧会の絵」によって、残りの絵(次項☆印)を含む、ハルトマンの残した作品(建築物も含む)の探索がなされた。大変、貴重な試みであったと思 う。

デザイン
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 / 展覧会の絵 / Pictures
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☆グノム。地底に住むこびと妖精で、人とよく似ているが足が奇妙に曲がっている(獣のような足?)という。そ のグノムがついた てから顔をひょっこりと出している。いたずらでもして、その顛末を面白げに覗いているかの様で愛嬌たっぷりだ。
★バレエ「ト レルビ」のた めに描かれた衣装デザインのひとつ。子供達がこれを着て「雛の踊り」を踊 る。この他にもオペラ「ルスランとリュドミラ」用に描かれた衣 装デザインが数枚残っている が、いずれも、なかなか奇抜で面白い。 ★ バーバ・ヤーガの小屋をモチーフにした置き時計のデザイン。ペン画と彩色画の二つがある。バーバ・ヤーガは深い森に住む 山ん 婆のような妖 怪。鶏の脚を持った奇妙な小屋に住んでいるのだという。どういう経緯でデザインしたのかは不明であるが、本気で作ろうと していたように思える。鶏 の脚は、細くて脆弱な感じがするが、彩色されたものを見ると後ろは台座とつながっていて、手前の脚は修飾のひとつである ことがはっきりわかる。一見、荒唐 無稽であるが作ることを前提にしたデザインだと思 う。か なり精巧 な木工芸が必要だが、現実に作ってみる価値があるように思う。側面などのデザインも残っているのではないだろうか。

建築
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☆古城。中央下の人影は吟遊詩人という。古城といっても城跡ではなく、古い中世の城。緻 密な模様と彩色が美しい。オペラ「ルスランとリュドミラ」の舞台装置のために描かれたもので、「チェルノモールの城」と いう標題が付いている。実在の城か どうかはわからない。想像で描かれたものと考える方が順当か。

★ キ エフの大門。キエフは 現在のウクライナの首都。そこに建築予定であった凱旋門のデザインコンペに出品した作品。この作品は かなりの評判になったと言われているが、結局、結果はうやむやで計画は立ち消えになったという。凱旋門の下を通る馬車が 描かれており、そ の比較から門がかなりの大きさであることがわかる。また、門でありながら正教会風の建物が併設されており、凱旋の時には 高 らかにカリヨン(組になった大鐘)を打 ち鳴らすことができるようになっていた。一見、柱部分が細いけれど、扉を収納できる奥行きを持つはず なので、強度的には問題ないように思う。また、屋根の形や色など、まさにロシア風のデザイン。バーバ・ヤーガの時計と同 様、奇抜に見えて実 は現実味のあるデザインで秀逸だと思う。

人物
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☆リモージュの市場のモチーフか。とっくみあいの喧嘩している人、大きく体を反らして声を張り上 げている
物 売り、着飾った人、体をゆっくり伸ばしてくつ ろいでいる人、などをデッサンした ものをべたべたと台紙に貼り付けてモン タージュにしている。また、台紙にも髑髏の絵や綺麗な女性の絵などが書き添えられていて、これ自体が「展覧会の絵」のよ うな構成を感じさせる。案外、こ ういうものも「展覧会の絵」の構成を考える上でのヒントになったのではないだろうか。

★ローマの地 下にあるカタ コンブ(キリスト教徒の墓地)。シルクハットの人影がハルトマンと友人ケネス。カンテラを持つ手前の 人物が墓地の管理者で案内人。右手の壁には髑髏がうずたかく積み上げられている。 ★ポーランドのサンドミルで描かれた豊かなユダヤ人(左)と貧しいユダヤ人(右)。 これがゴールデンベルグと シュミイレのモチーフだと考えられて いる。
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☆ポーランドの反乱と題された作品。奥 の建物や十字架から教会の敷地だろう。多くの軍人と右端 にギロチンらしき台があり、処刑の 風景か。 ☆パリにて、というメモ書きのある2枚の絵。テュイルリー広場(パリ)のモチーフ か。ただし、後ろの壁 からみて、普通の街角の風景のように見える。


■3.ハルトマンかガルトマンか

ロシア語の  Гартман を日本語でどう表記するかです。次のように整理できます。

ハルトマン

1.
30年前、私 が中学校で 「展覧会の絵」を 習った時の音楽の教科書はハルトマン。そして、今でも、ハルトマンと表記されています。
2.
英語での綴りは Hartmann が一般的。Gartmann と表記されるのはまれです。
3.
アビゾワ「ムソルグスキー:その作品と生涯」(伊集院俊隆訳)でもハルトマンと表記。

ガルトマン

1.
ロシア語のГ は、Gにあたる文字。それで、Гном= グノーム、Гольденберг = ゴールドベルグ、Борис Годунов= ボリス・ゴドゥノフ、と通常はグやゴと表記されます。
2.
ただし、ウクライナの伝統舞曲  Гопак は Gopak ゴパーク、Hopak ホパーク、のどちらの表記もあります。ウクライナ地方ではホパークと発音するのだとか。
3.
NHKの番組「革命に消えた絵画−追跡ムソルグスキー展覧会の絵−」ではガルトマン。登場するロ シア の研究者は、ガハルト マンと発音しているようでした。

原語にできるだけ合わせるならばガルトマンと表記すべき。グノムやゴルドベルグと いった表記とも矛盾しません。し かし、私にはハルトマンが 馴 染みであること、英語でも Hartmann と表記されることから、ハルトマンでの表記を採用しています。ご了承ください。


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        at an exhibition■4. ハルトマンのサイン

絵のサイン(署名)には何らかのこだわりがあるのが普通です。実際、複数のサインを使い分けたり、何かをきっかけに変えたりすることもありま す。で、ハル トマンのサインも調べてみると、2種類あり、使い分けているようでした。

(1) ロシア国内で描いた絵はロシア語で名字をサインしました。Гартман  と読めます

(2)
フランスやポーランドで描いた絵、つまり、留学中の絵には、英語でファーストネームをサインしました(例外もあります)。Wictor もし くは Victor のサインもし も、ここで ファーストネームでなく、名字を英語で書いてくれていたら、彼が外国で Hartmann と名乗っていたか、Gartmann と名乗っていたかわかるのですが、ちょっと残念です。


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