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休八写真館針穴カメラ室(中判)

Vermeer 617



Vermeer 617ポーランドのハンド・クラフト・カメラ。

6x17のフィルム面を持つ。つまり、6x6の3つ分であり、1:3の大パノラマが撮れるピンホール・カメラである。

一般に、パノラマ写真には周辺の光量落ちの問題があるが、ピンホール写真の場合は、さらにそれが大きくなる。原因はふたつある。

ひとつめは、レンズであれ、ピンホールであれ、そこを通過した光束はフィルム面に向かってだんだんと広がって進むためである。

このため、距離があるほど光束密度が低くなる(暗くなる)。そして、フィルム面の中央と周辺の光の到達距離に違いがあるため、中央と周辺に 光量差が生じるのだが、フィルム面が横に広いパノラマでは、この光量差が顕著であり、どのように露出をとっても、周辺の光 量落ちが目立つのである。

ふたつめは、ピンホール特有の問題である。ピンホールをまっすぐ通過する光と比べて、斜めに通過する光は、ピンホール板の厚みの影響を受けるから である。

つまり、まっすぐ入る光はピンホール板の厚みの影響は0であるが、斜めに入る光は、ピンホール板に厚みがあるために光が欠けてしまい、ただでさえ 少なめになる光束がさらに減ってしまうのだ。このため、光が斜めに入る部分(つまりフィルム面の周辺部)ほど、極端な光量落ちが生じるのだ。

こうした問題を回避するには、フィルム面を彎曲させること、ピンホール板を薄くすること、画角をあまり大きくしないこと、などが有効である。そこ で、湾曲面 を持つピンホールカメラを探しつつ、自作する準備をしていたところで、このカメラを見つけた。フィルム面はピンホールを中心とする真円を半弧状にして、木 工で仕上げてある。全体の作りも丁寧である。幸い、比較的安価で購入できた。水準器とファインダーが無かったので、これらを自分で 取り付け、さらに内部のフィルムガイ ドを改良した。都合、3カ所の小改造を行ったのだが、くわしくはこちら

フィルム面をカーブさせる手法は普通のレンズ・カメラでも見られるが、多くは、ゆるやかなカーブを描く程度であり、真円の円弧を描くようなものは 少ない。せいぜい、首振り型のパノラマカメラぐらいだろうか(KMZ Horizont、 FT-2, Widelux など)。しかし、それらと比べ、フィルム装填がきわめて簡 単な点は、このカメラのよいところだ。レンズ付きカメラだとレンズからの焦点距離を厳密にする必要があるが、ピンホールだとフィルム面がどのような曲面を 描いていても結像するので、フィルム装填も簡単にできるのである。

部位によって違う木材が使われているが、厚紙程度に薄いのに弾力の強い木材があって、シャッター部やフィルム装填の板バ ネ部などに使われていた。適材適所は当 たり前だろうが、その選択の妙に感心してしまう。ウッドクラフトカメラは、いろいろな国で作られているから、木材のお国柄もあるのかもし れない。

写真は面白い。こんなに大きなパノラマなのに、何だか標準に近いような写真が撮れる。無論、画角は90°あるので、立派な超広角なのだが(標準は 50°前後、広角は63°以上、超広角は84°以上というのが一般的な分類)、周辺の光量落ちがほとんどなく、周辺のゆがみもほとんどなく、被写 体までの距離も案外近くて、標準に見えてしまうのである。無理のないパノラマ写真といえばいいのだろうか。不思議な世界である。

追記1: スプール間の距離が長く、しかも湾曲しているために、フィルムの巻き上げがあまりスムーズでない。これに対しては、フィル ム巻き上げは左右のノブを同時に廻すことで軽減できる。また、フィルムが外側にゆるんで広がりやすく、真円が保てないことが多い。これについては、簡単な フィルムガイドを作成してとりつけて解決した。

追記2: 水準器とファインダーがあると便利。自分で取り付けた。水準器はエビスの
円 形気泡管を接着。ファインダーは Natasha 69 の光学ファインダーを兼用で使うことにした。

追記3: 現像してあがってきたフィルムに時々、光線漏れがある。フィルムの巻きが悪くて、たわむことがあり、スプールの外にはみ出すように なるのが原因と考えられた。ホルガ・カメラのフィルム室の工夫をまねて、スポンジ片を取り付けた。フィルムの巻きがひろがらないよう押さえつ けるのである。

追記4: シャッター部は蓋部分を左右にスライドするようになっているのだが、撮影行でカバンに入れたり出したりしているときに、このスライ ド部が動いて開きっぱなしになっていることがたびたびある。クローズ位置でロックできるようにする必要にせまられて、磁石を使った「押さえ」 をとりつけた。やや、見栄えが悪くなったのだが、背に腹は替えられない。

発売年
2008年   愛着度★★★
型 式
中判フィルム 6x17cm ピンホールカメ ラ
シャッター 簡易開閉式(=タイムと同じ)
ピ ンホール
φ0.30mm 焦点距離 90mm F300
画角 90° (35mm判で22mmレンズに相当)
測 光
なし
ファ イ ンダー
なし
フィ ル ム交換
1.使用済みフィルムが ある時 は、上面左手の巻き上げノブで全部巻き上げる。
2.上面のふたつのネジをはずして、上面をはずす。フィルムを取り出す。
3.古いスプールを巻き取り部(左)に移して、新しいフィ ルムを右にセット。
4.巻き上げは上面左手の巻き上げノブ。
5.フィルムカウンターは背面の赤窓で見る。2, 5, 8, 11 で撮影できる。
大きさ・重さ w192mm x h130mm x d118mm 685g
その他
フィルム面は半径8cmの円弧を描く。フィルムガイドを自 作して取り付けた。
アクセサリーシューを取り付けて、Natasha 69 のファインダーを使用できるようにした。
エビスの円形気泡管を接着して水準がとれるようにした。

Vermeer 617, Tokyo Forum

東京国際フォーラムの内景。
三脚使用。 Φ0.30mm f=90mm F300 / RDPIII


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