© 1999-2000, Kyu-hachi TABATA
オーロラを見よう (ヘル シンキだより #26)


フィンランドといえば、「オーロラ」「ムーミン」「サンタクロース」。このうち、お天気まかせ、運まかせの要素が強い「オーロラ」をどうやってよ り確実に見るかを少しばかりご紹介します。

26-1 オーロラとは?

フィンランドでは、「オーロラ」といっても通じません。これはもともとは Aurora borealis という学名(ラテン名)からの転用。英語の Northern light (=極光)、フィンランド語の Revontontori (=キツネの火)と言うと通じます。ほのかな緑がかった光のカーテンのようで、とても暗いところでないと見えません。また、北極を中心にリング状に形成さ れるので、とりあえず北側に向かって探せばよいことになります。

写真集などでは、赤や黄色や青など鮮やかなもの、また巨大なオーロラが紹介されていますが、通常見ることができるのは、殆ど緑色のみ。これは赤や 青であっても人間の目には識別できないためだそうで、写真にとってはじめてこうした緑以外の色が浮かび上がってくるのだそうです。派手なイメージ で探すと、見つけることができません。私の場合でも、「ぼんやりと光る雲のようなものがあるなあ、あれがオーロラかなぁ」とちょっと気にしていた 「雲」がやがて活発に動き始めて、やっと「ああオーロラだったんだ」と気づきました。一旦、こうした経験をするともう見落とすことはありません。

科学的には、太陽から来るプラズマ流(ほぼ同数の陽子と電子からなるガス。太陽風ともいう。)が地球をとりまく磁場の影響で起電力を生じ、放電現 象を起こすのが原因と考えられています。この地球磁場は、地軸を中心にしており、地軸付近では強くなりますから、北極圏や南極圏ではオーロラが現 れやすくなります。また太陽の活動が活発になると(=黒点が増えるなど)、地球に降り注ぐ太陽風の量が増え、オーロラが出やすくなります。ただ し、この放電現象から発光に至るメカニズム、特に電子がどのように加速するかが、まだよくわかっていないようです。

なお、宇宙から見ると、オーロラは冠のような形をしています。スペースシャトルから撮影されたオーロラの写真は結構、有名になりました。また、地 球だけでなく、木星、土星、天王星、海王星などでもオーロラが現れます。

26-2 季節

オーロラは年中、出現していますが、地上から見ることのできる季節は冬のみです。なぜなら、北極圏の夏は白夜のために一日中、太陽が出ており、明 るすぎてオーロラを見ることができないからです。まあ、昼間の月のようなものです。逆に北極圏の冬は、白夜の反対で太陽の出ない日がずっと続きま す。それで、オーロラを見るのに適した季節は冬ということになります。

26-3 晴天率

冬だったら毎日見ることができそうですが、そう簡単ではありません。空を見上げてもすぐにはわかりませんが、雲がないこと(快晴に近い天気)が大 事なのです。なぜなら、オーロラは雲よりもさらに高い上空で出現するため、雲が出ていると地上からは何も見えないからです。またその光はとても弱 いために、薄く雲がでているだけでも、その光は全く見えないことになります。そこで大事なのがその地方の晴天率(=晴天の日の割合)です。

まず、海沿いはダメです。雲がもともと出やすいからです。このため、海沿いにあることの多いノルウェーの街や村からオーロラが見える機会はかなり 低いはずです。ノースカップまで行っても同じことです。次に暖かい日はだめです。地上から蒸気が上がり、雲になりやすいからです。従って、-20 度ぐらいの寒い日が「オーロラ日和」ということになります。結論からいうと、フィンランドのロバニエミ以北(ロバニエミはダメ)がOKです。あと はアラスカしかないでしょう。

26-4 時間帯

なぜか知りませんが、現地時間の夜7時、9時、11時、しかもそれぞれ 30分ぐらいずつの間が、オーロラの出やすい(=見やすい)時間帯です。勿論、これ以外の時間帯も出るでしょうけれど、無理せずに休み休みオーロ ラを探しましょう。-20 度の中にずっと立っているのは体によくありません。

間欠的に出現するのは、たぶん、冒頭で述べた太陽風と地球磁場の間で起こる放電現象(オーロラを引き起こす電子ビームの加速と爆発)が数時間に一 度ぐらいの割合で起こることを反映しているように思います。なお、この放電現象の発生のメカニズムは未だに謎のようで、頻繁に起こることもあれ ば、2日まっても、3日まっても出ないことがあるのだそうです。また、この放電現象の規模や、地球との位置関係によってオーロラの形や動きが決ま るのだろうと考えられているそうです。

26-5 場所

真っ暗闇のところ。近くに家の明かりがあるところは絶望的です。ホテルからなるべく近くて真っ暗なところを探しましょう。フィンランド人はわざわ ざオーロラを見るために夜中に立っていることはありません。薄暗がりの中、立っている人がいたら、間違いなく日本人です。情報交換をしましょう。 私たちも最初は他の方が立っているところの近くで、いろいろと教わりながら、オーロラを待ちました。大概の日本人が、もう2日目とか3日目とか で、いろいろと教えてくれるのです。

26-6 防寒着

フィンランドはあまり風が吹きませんし、乾燥していますので、-20度といっても、それほど寒くはありません。日本の湿気のある日の3度ぐらいの 方が、寒く思えます。しかし、実際の処、寒さは相当なものです。まず、足元ですが、底の厚い少し大きめのブーツをはきましょう。窮屈な靴は血の巡 りが悪くなり、寒さに耐えられなくなります。靴下はウールのものがあればベストです。

ズボンはその下にズボン下(モモヒキやタイツ)をはいていれば、だいたいOK。スキーウェアの下(サロペットのようなオーバーズボン)をその上か ら履けばかなり暖かいはずです。ただし、このオーバーズボン、必須ではありません。あまり着るとかえって動きにくく、体温があがりません。上は、 ダウン(羽毛)の腰まであるコートがベスト。軽くて暖かいです。私は、ダウンコートの下には、せいぜいウールのベストを来ているぐらいで、セー ターとの着合わせをすることがありませんでした。

厳寒地では、皮製のコートはあまりおすすめできません。暖かくないし、やや重いからです。スキーウェアも勧めません。これは運動して熱を出した体 をつつむための衣服で、ずっと立っていると外気の寒さに体がやられてしまいます。手袋と帽子は必須です。襟巻きは不要。手袋は日本で普通に使う程 度のもので十分。帽子は耳が隠れる暖かいもの。コートに暖かいフードがついていればそれでも結構です。手袋をつけると、服を一枚着たのと同じ、帽 子をかぶれば、さらにもう一枚着たのと同じと言われたことがあります。冷えやすい末端(手足や頭)から保温するのは一番効率のよい防寒です。
 ホテルには大概、乾燥機がありますから、外から帰ってきたら、あまり濡れてなくても、こまめに乾燥させておきましょう。湿気は寒さを助長し、体 力を奪います。

26-7 私たちのケース

私たちは、条件のそろった場所として、レヴィというスキー場のホテル・シルカンタハティのロッジ風の部屋をとりました。このホテルには日本人のガ イドも常駐しておりました。そのガイドの方に、500mぐらい離れたところにオーロラを見ることのできるいい場所を教えてもらいました。私たちの 部屋には、サウナと乾燥機がついています。スキー場では、宿泊の間の足としてのクロスカントリースキーの一式を借りました。

オーロラの出る時間帯のちょっと前に、ホテルを出ます。このときに、サウナのタイマーを仕掛けておき、帰ってきたときちょうどいい温度になるよう にしておきます。真っ暗闇ですが、ポイントまでの道はそこそこ明るいので、スキーで行きます。ほとんど平坦ですから楽ちんです。30分ほど、観察 します。小さなろうそくか懐中電灯があった方が何かと便利でしょう。オーロラをしばらく観察したら、また部屋に戻ります。体が冷えすぎてしまうか らです。帰ったら、サウナです。ビールも少し飲みます。これを一晩に3−4度ずつ繰り返しました。

26-7 参考資料

赤祖父俊一 「オーロラへの招待」 中公新書 1995年 \820
オーロラの科学的な解説書。カラー口絵に美しいオーロラの写真がある。質、量ともに適当で、しかも、わかりやすい。
門脇久芳 「オーロラ AURORA」 情報センター 1990年 \2,800
オーロラの写真集。ただし、写真もオーロラだけでなくラップランドの風物を取り上げてある。多くのオーロラ写真集がアラ スカのフェアバンクスでの撮影であるが、この本はフィンランドでの撮影。門脇さんの文章も面白く、彼の地を愛する様子がよく伝わってくる。ま た、オーロラ写真の撮影条件などの説明がある。もちろん、写真はすばらしい。巻末の上出洋介先生による解説も非常にわかりやすい。まず、一冊 だけ購入するなら、是非もなくこの本をお薦めしたい。
「オーロラ 門脇久芳作品集」 シンフォレスト 1995年 \3,980
上述の本をベースにした CD-ROM。Mac/Win 両対応のハイブリッド版。動画や宇宙から撮影されたオーロラの写真なども追加されている。音楽やナレーションも効果を高めている。シンフォレストの CD-ROM はいずれもレベルが高いが、中でもこれは出色だと思う。
門脇久芳 「オーロラの国で」 アスペクト 1998年 \2,800
前作「オーロラ AURORA」は、オーロラ以外の写真も多かったが、これはオーロラのみ、しかも解説抜きの純粋な写真集。写真だけを楽しみたいならば、これもよい。
マルッティ・リッコネン 「オーロラ」 タンミ 1998年 FIM 169
この本は、フィンランドの写真家の作品をフィンランドの出版社が本にしたもの。フィンランド語版、英語版、日本語版があ るが、たぶん日本での入手は不可能。ヘルシンキ市内のアカデミア書店の2階の図鑑などのコーナーで入手。日本語訳は大倉純一郎。写真は全般的 に門脇さんの方が上手だと思うが、野生動物などの写真があり、これがうまい。Martti Rikkonen は、1995年と1997年のフィンランド年間自然写真賞の受賞者。大変、権威のある賞であり、この賞をひとりで二度も獲得したのは彼が最初である。ま た、Irma のラボのポスドク、Maria Mikkola の叔父でもある。

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