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休八写真館資料室

116フィルムの現像



116 フィルムと 120 フィルム

写真1.左3本が116フィルム。右2本が 120フィルム。
赤いのが Ilford Selochrome 116。
黄土色のが Ansco Plenachrome 116。
116フィルムも、120と同様、撮り終わったら、封緘する仕組み。


手順1.部品せいぞろい

写真2.部品一覧。手前左ふたつがス ペー サー、右が軸留め。
中段は左からスプールの細い軸、太い軸、マスキングテープ。
後は支柱となる黒い軸。


手順2 スペーサーを入れる

写真3.太い軸の内側にスペーサーを入れる。

手順3.スプール合わせ

写真4.太 い 軸と 細い軸の位置合わせをする。

手順4.メンディングテープで留める

写真5.ふ たつのスプールをマスキングテープで固定。
軸留めもマスキングテープで固定。これで完成。

巻けている様子。

写真6.現像が終わって水洗するところ。きれいに巻け ている。



Girls

写真7.きれいな像が出てきました。承諾を得て掲載しています。
まるでタイムカプセルです。

116 フィルムと は、120フィルム(いわゆるブローニー判)よりも 1cm 巾が広い、7cm 幅のロールフィルムです。

1899年、コダックが作った規格で、7x11cm の大きな像が撮れました。120フィルムと並ぶ中判フィルムでしたが、1984年 にはついに生産が終了しました (くわしくはWiki へ)。

きっかけ

ひょんなことから、116 の古いフィルム3本の現像を引き受けました。Ilford Selochrome が1本、Ansco Plenachrome が2本です(写真1)。116フィルムを使うカメラは持っていまし たが(Ensign Carbine No.12 Tropical)、 116 フィルムを見るのは初めてです。

仮に1960年代のものとしても、もう60年前のものです。経年劣化による変性はあるでしょうから、像が写っている かどうか不安です。それに、フィルムベー スが劣化していたら、作業中に切れたりする可能性だってあります。

そして、116フィルムを巻くことができる現像タンクな ど、もう日本中探してもなかな かないはず。実際、どこの現像所でも、「現像できない」 と言われたそうです。

でも、きちんと巻いて封緘しているのを見ると、このフィルムを使って撮った人の几帳面さや気持ちが伝わってきます。「こ のフィル ム、現像してあげたいなぁ」、と思えてきました。それで、ダメかもしれないことを了解していただいた上で、現像をお引き受けしました。

方法と手順はつぎのようにしました。以下、備忘録をかねてのご紹介です。

課題1

どうやっ てロー ル フィルムを巻くか、 です。

これには、パターソンの現像タンクシステムを 使 うことにしました(写真2)。フィルムを巻くス プールが上下に分かれるようになっており、噛み合わせを変えることで、軸部の長さを 3段階に変えられる仕組みです(*)。しかも、ベルトを使いません。


* 35mm判 (135フィルム / ライカ判)、45mm判 (127フィルム / ベスト判)、60mm判 (120フィルム / ブローニー判)の3種類に対応できる。

このスプールの軸長を変えて、70mm巾にできれば、きっと116フィルムを巻けるはずだと考えました。

課題2

現像液の選択と時間、で す。

現像液にはいろいろな種類があり、厳密にはフィルムに合わせて最適なものを選び、最適な温度と時間で現像します。

た だ、 実際 にはどんなフィルムで あれ、大体はD-76など メジャーな現像液で対応できま すし、温度と時間もひとつの目安にすぎません。以前、購入したロシアカメラ (GOMZ Sputnik) を開けたらフィルムが入っていたことがあり、この時もうまくできました。

それで、今回もD-76を使うことにしました。

スプールの改造

軸長をフィルム巾(実寸 69.5mm)にあわせる必要があります。最初は、YouTube で紹介されていた、2組のスプールを組み合わせる方法を試しましたが、うまくフィルムが巻けませんでした。スプールにも新旧があって、少し構造が違うため かもしれません。このため、下記のような方法を独自に考えました。

1.
スプールを上下 に分 けます。太い軸 の内 側に スペーサーをつけて(写真3)、黒い支柱に差してもがたつかな いようにします。

このスペーサーは、生化学 系の 実験 では おなじみの 50ml チューブを切って使いました。ディスポーザブルで安価ですし、耐薬品性もあります。使用済みを洗って再利用。カッターナイフ で切るだけです。部分的に厚みが欲しいところは、二重に巻くようにしました。
2.
黒い支柱を芯に して、太い軸、 細い 軸を セットします(写真4)。太い軸の内部にいれたスペーサーの高さ を調整して、両者を合わせたときの巾が 67.5mm になるようにしました。ここの工作が大事な勘所で、正確に寸法を合わせられるまで、根気よく作業します。

フィルム巾は 69.5 mmでしたが、そのサイズだと、フィルムを巻き始めるとすぐに脱落して巻くことができませ ん。実際には、67.5mm まで寄せることできれいに巻けるようになりました。この調整作業は、完全暗黒の状態で実際の フィル ムを 巻いて確認します。きちんとサイズが合うと気持ちよ くフィルムが巻けますが、なかなかうまく出来なくて、途中で何度も中断しました。
3.
スプール巾が決 定できたら、両 者をマスキングテー プなどで 固定します。また、細い軸の上にも軸留めを作ってこれ もテープで固定(写真5)。これらはすべてがたつきを防止するためです。

テープにはマスキング・テープ、軸留めは先ほどの 50ml チューブの端切れを使いました。チューブは3箇所使っていますが、実質、1本のチューブを3つに切って使っているだけです。

上記の作業では、元部品に一切、 傷をつけたり糊付けしたりしません。した がっ て、使 用後 はまた元に戻せて、今まで通りの使用ができ ます。また、フィ ルム巾よりも少し小さい 巾に工作す ることと、が たつきをなくすこ とが 大事で、この二つを守れるならば、スペーサーなどの素材は何でもよいと思います。

現像

完全暗黒の状態でフィルムを取り出し、改造スプールに巻きま す。きちんと改造ができていたら、ス ムーズに最後まで巻けます(写真6)。巻き終わった ら、 タンクにセットします。このあとは、明るいところでも作業できます。一応の作業は下記のとおり。現像 は少し長めにしましたが、まぁ、オーソドックスな手順だと思います。

現像: D-76 (1:1希釈液)で 7.5 分から10分。室温 23℃。液量は600ml ぐらい。
停止: 5%酢酸で30秒。
定着: Super Fuji Fix で10分。
水洗: 10分。(タンクを開けて洗面器などで流水洗)
乾燥: DryWell に軽くつけたあと、吊し風乾。

3 本のうち、Ilford は、フィルムと巻紙が貼り付いていたので、暗黒下でできるだけ丁寧に剥がし、小型のタンクにいれて予備水洗。フィルム表面の保護剤の変性ならば、水で溶出 できるはずと考えたからです。この考えがあっていたかどうかはわかりませんが、30分ほどの水洗で フィルムから巻紙がきれいにとれまし た。き れいになったところで、スプールに巻きました。

結果

フィルムは経年劣化があって、鮮明な像ではありませんし、小さなスポット変性がたくさんありましたが、 それでも、Ansco の2本には、人物や建物の写真が浮か んで きま した(写真7)。嬉しそうに映っている姉妹の姿が出てきた時には、こちらも思わず嬉しくなりました。

その後、1952-54年頃の撮影ということがわかりました。65-67年も像が残っていたのでした。


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