© 1996-1997, Kyu-hachi TABATA
ヘルシンキだより #11 1997- 5-22 記
ヘルシンキにもやっと春がやってきました。先週ぐらいから、木の芽が開きはじめ、春の花
がいっせいに咲きはじめました。おたまじゃくしもみつけました。つくしも出ています。数は少ないのですが、桜も咲いています。日照時間がどん
どん長くなり、このごろは18時間もあります(今、夜の9時半ですが、外はまだ明るく、部屋の電気は不要です)。このためか、動植物の成長が
やたら早いように思います。
気温は10度を越す日が多くなりました。晴れの日が続きます。朝は3時頃から明るくなり、鳥が鳴きはじめます。寝不足気味で仕事をするこの頃
です。自転車で通勤する人が出はじめました。
11-1 管木さんの誕生日(5月5日)
管木さんは、潤子のお兄さんの友達で現代音楽の作曲家です。手巻き寿司の材料を管木さんのうちに持って行き、奥さんのターリヤ Tarja
Kurki さん、友人のオグラ・アキコさんと一緒に歓談しました。
11-2 ロシア料理 (5月7日)
日本での連休を利用して、ハヤトの奥さん(大島邦子先生)が1週間の在フィン。そこで「トロイカ」という店に行きました。ペルメーニという水
ぎょうざのような前菜、ビートで作った紫色のボルシチ、ウクライナ風ステーキなどを食べました。味も店の雰囲気も大変よいものでした。最後
は、お決まりのロシア風紅茶です。個室を使えたこともあり、大変リラックスした晩餐でした。
11-3 バルコニーでランチ (5月10日)
土曜日です。綾子の日本語補習学校から帰ると昼の3時。遅めのランチです。気温が15度
ぐらいと暖かかったこともあり、バルコニーにテーブルセットを出して、食事をしました。バルコニーにはガラスのシールドがあり、とても温かい
のです。温度を計ると34度もありました。Hakaniemi の Maxi
で買った美味しい焼きたてパンやチーズ、フリーマーケットで買ったイチゴ、チェリーが食卓にならびました。寒い日もありますが、初めて春を感じた一日でし
た。
11-4 春が来た (5月11日)
日曜日です。綾子と二人で、フラットの周辺を散策しました。住宅街なのですが、すぐ周辺
には豊かな自然が残っています。ヤブイチゲ Valkovuokko / wood anemone や、フキタンポポ
Leskenlehti / coltsfoot
が咲いています。2時間程の間にアカリスに4度も出会いました。そして、道端の水路にカエルの卵を発見。神経胚後期の胚でした。昨日
ぐらいに産み付けられ
た様です。さっそく、ビニール袋に一塊の卵をとり、持ち帰りました。持ち帰った水の中にはケンミジンコやミジンコも観察できました。木の芽も
ずいぶんふくらんできましたし、いよいよ春の到来のようです。心がはずみます。
11-5 春のコンサート〜 Irma の受賞 (5月15日)
研究所のカフェテリアで
Keva"t-konsertti(春のコンサート)がありました。フルートとギターによる二重奏で、シューベルトやブーラン、モーツァルトなど10数曲
が演奏されました。
この日の晩、Irma が Helsingin tiedepalkinto (= Helsinki Science Prize
ヘルシンキ科学賞)
を受賞しました。翌日の新聞に写真つきで紹介されたり、訪問者に研究内容をレクチャーしたりとこの前後はうれしい喧騒でした。
11-6 Tabby マウスの移動
Tabby マウスの飼育は、これまで歯学部の動物施設で行っていましたが、Irma が昨夏、Viikki
の生物工学研究所に移ったのに伴い、今年はじめごろ、Tabby
マウスの移動を行いました。しかし、新施設は無菌飼育施設なので、移転に先立って無菌世代の作成が必要でした。手順は次のとおり。
1. Tabby
マウスを交配。妊娠マウスを隔離。妊娠期間は19日。
2. 出産前日の母体を帝王切開し、新生仔を無菌的に取り出す。
3. 新生仔を無菌施設に運び、仮親(他系統の無菌マウス)に与え、育てさせる。
4. 順調に育てば離乳まで3週間。成熟するのには約3ヶ月。
帝王切開はラボの有志と技官が、飼育は専門の飼育技官があたりましたが、もともと Tabby
マウスは繁殖能力が低く、難航しました。このため、今年はじめから、胎仔入手が不可能となり、大変な痛手となりました。
そこで、3月から農学部の設備(無菌施設ではない)を借りて、リタイア動物を使っての交配を始めました。私と Johanna
のどちらかが毎日、交配動物の妊娠チェック(Plug
Check)を行い、妊娠マウスを隔離します。しかし、何週間も空振りが続きました。もうだめかなあと思っていた今月になって、やっと妊娠マウスを得る事
ができました。「春がきたね」と冗談も出るうれしさです。無菌室への移動と繁殖も何とか進み、今月末から動物試料が得られる予定です。
11-7 ブレークスルー (5月21日)
研究の方も、昨日、やっとブレークスルーがありました。抗 EGF-R 抗体が work
する条件をやっとみつけたのです。上皮が網の目の様にきれいに染まります(細胞膜だけが染まるから)。久し振りに興奮するデータでした。すぐに
Irma に見てもらい、今度はいい、これまでのデータとも一致する、像もきれいだ、congratulation !
と言われました。ラボの面子も昨日、今日と「いいデータがでたんだって?」と話し掛けてくれます。ほっとする反面、気持ちをさらにひきしめているところで
す。
11-8 古本屋
ヘルシンキ市内には、新しい本を扱う書店が数えるほどしかありません。これと好対照に、古本屋は街のあちらこちらにあります。もともと古本屋
めぐりが好きな私にはなかなか嬉しい環境です。どの古本屋に入っても、1〜2時間かけてしまいます。図鑑や辞書、動物写真集、理系書籍などを
購入します。お気に入りは次の店です。
a. Hagelstamin Antikvaarinen Kirjakauppa: Eiran の近く(Fredrikinkatu
35)にあるフクロウ・マークの古書店。自然科学、建築学、美術関係の本などが豊富。ドライスカルもおいてある。
b. Suomen Antikvariaattiyhdistys:
管木さんの家の近く(Mechelinkatu)にあるちょっと高級な古書店。古地図や古い図鑑のページ売りもしている。