© 1996-1997, Kyu-hachi TABATA
ヘルシンキだより #14 1997- 7-20 記
今年の夏は、暑くて雨の降らない天気の日が続きました。気温も
25℃を越す連日でした。それで、乾燥しすぎて山火事が発生する始末。ついには、野外での火の使用禁止警報が出て、夏至祭(6月20日)の
Kokko
という焚き火ができなくなりました。しかし、フィンランドの人々はこの暑い夏を実に喜んでいるようでした。やはり太陽の日差しが一番うれしいのです。
夏至は「夏の終わり」のはじまりです。もう、これからは、秋にまっしぐらだよと人が言います。確かに夏至が過ぎた途端、20℃を下回る涼しい
日が続く様になりました。私も帰国を意識しながらの日々になると思います。
14-1 夏至(6月21日)
ヘルシンキでは、日の出 3:54、日の入り 22:50 で日照時間は
19時間。太陽の軌道は極端に低く、真北に近い東から日が昇り、東の空、南の空、西の空をゆっくりと移動して、真北に近い西の空に沈みます。薄暮時が長い
のも特徴で、夜は
11時半ごろにやっと暗くなり、朝は3時ごろにはもう明るくなります。フィンランド北部のキッティラなどでは、日が沈まない「完全な」白夜が
続いています(6月初旬〜7月中旬)。
「夏至を過ぎたら、蚊が出はじめるよ」と Keijo
が言っていましたが、そのとおり。野道を歩くと太目の蚊がやってきます。服の上からでも刺してくるし、結構、痛いのです。日本では、「盆を過ぎたら、クラ
ゲが出る」と言いますが、意味するところがちょっと似ていると思います。日本では、盆が秋の始まりですが、こちらでは夏至が秋の始まりなので
す。
14-2 ポルボー訪問(6月21日〜22日)
管木さん・ターリヤさん夫妻に誘われて、ポルボーへ。ヘルシンキ港出発の小さな船ルーネ
ベリ号で約4時間。ヘルシンキの東側約 50 km
のところにあるフィンランドで2番目に古い街に着きます。初日は、このポルボーの少し手前にある半島にあるホテル Heikko Manor
で一泊。古い領主の家を使ったホテルです。たまたま結婚パーティが開かれており、華やかな様子を垣間見ることができました。実は、この日は管
木さん・ター リヤさんの結婚記念日でもありました。
翌日、ポルボーのガムラスタン(旧市街)へ。教会や古い町並み、港の様子を見て回りました。帰りはバスで1時間半ほどでした。
14-3 新じゃが
フィンランドで一番おいしいもの、それは多分、ジャガイモです。日本で米の品種を選べる様に、こちらではジャガイモの品種を選ぶことができま
す。新米を喜ぶ様に、こちらでは新じゃがを喜びます。そして、夏至の直前に新じゃがが出始めます。
同僚の Tuija
によると「フィンランドのジャガイモがおいしいのは、夏の日照時間が長いから」。他の植物などの成長を見ていると確かにそうだと思えます。フィンランドの
夏は、日照時間が極端に長く、陽光が四方から満遍なくあたる一方で、気温がそれほど高くはならないため、植物の光合成の効率はかなりよいと思
います(気温が高すぎると光合成阻害が起こり効率が落ちる)。北欧の植物生産効率は、熱帯地方のそれよりも高いといいますし、実際、植物の成
長の速さは驚くばかりです。
14-4 その後のおたまじゃくし
5月11日に近くの森からとってきたカエルの卵は、どんどん成長しました。結構な数だっ
たこともあり、いくつかの家庭にさし上げました。餌は熱帯魚の餌。容器はユニカフェでもらってきた直径20センチほどのバケツ型容器(ドレッ
シングなどが入っていた使用済み容器)や、スーパーなどでもらえる発泡スチロールのトレイ。どの家でも小さな子がいることもあり、結構楽しん
でもらえたようです。生き物を飼う事は簡単ではありません。時には死んでしまいます。各家庭、一喜一憂したようです。
6月の第2〜3週は、ヨーテボリ・オスロ旅行でしたので、我が家のおたまじゃくしは、里子にだされましたが、この間に変態期に入り、手足が出
て、尻尾がなくなり子蛙になってしまいました。種類はトノサマガエルの仲間 Rana temporaria
で、顔には目を通る様に金と黒のストライプがはいっています。ぴんと背筋をのばして座る様は、小さくとも立派なカエルです。6月24日、もとの森へ帰しま
した。
14-5 ミジンコの世界
近くの岩山にあった水たまりからとってきたミジンコ Daphnia
をジャムの入っていた瓶に入れて飼っています。この淡水性動物プランクトンは結構大きく、4 mm
ぐらいあります。コミカルにおよぐ様子を見るのは飽きません。飼育をはじめて、すでに1ヶ月以上たち、世代交代も何度かありました。ラボの机の傍らに置い
ています。
飼育方法は、実に簡単です。瓶の中に、とって来たプランクトンを水ごといれます。水量は容器の7割ぐらいが適当。蓋をきっちりしめて、日当た
りの良い場所におきます。餌は不要。水や空気の入れ替えも不要です。うまくいくと(大概、うまくいく)、自然に藻類が茂るようになり、動植物
の数のバランスがとれた状態に遷移し、かなり長い間世代交代を続けます。いわば「小さな地球」です。
この「小さな地球」の作り方は、高校時代の生物部で先輩から教わったものです。毎月のプランクトン採集のおりに潮だまりで、海洋性のケンミジ
ンコ Tigriopus japonica
を見つけては、持ち帰り、部室で飼っていたものです。半年から1年は飼育できたように覚えています。
14-6 ヘルシンキ動物園(7月5日)
ハカニエミから船で5分ほどのところにあるコルケアサーリという島へ渡ると、そこが動物
園。ライオン、ラクダ、ヒョウ、アザラシ、ポケットモンキー類などがいましたが、こじんまりとした動物園で、むしろ、ほどよい大きさの自然公
園といった風。天気がよく、ベンチでビールを飲みながらくつろいだり、ゆっくり歩いたりしながら、楽しみました。スカンクの檻では、匂いの実
演コーナーがあり、子供達はスプレーのでるボタンを押しては大騒ぎ。私も匂いは初体験でした。クジャクが放し飼いにされていたのにもびっく
り。7〜8羽のクジャクが餌をついばみながら、ゆうゆうと移動して行きました。綾子はレッサーパンダを見て、大喜び。日本で見る動物とくらべ
ると、みなゆったりとした感じがしました。
14-7 秋の訪れ(7月14日)
昨日までは静かだった草むらがジージーと鳴いています。小型のキリギリスのようです。フィンランドの夏は静かでした。セミの音はとうとう聞け
ませんでした。見たのもせいぜい、チョウ、ハチ、アブ、アリ、コガネムシ、てんとう虫などでした。
鳥達も春先は求愛の季節らしくにぎやかでしたが、夏場はずいぶん静かになりました。春先によくいたカラの仲間ももう見られません。かわりに
ヨーロッパアマツバメ ervapa"a"sky / swift が元気に飛び回っています。
秋の植物であるアザミ、ゴボウ、ススキ、イトシャジンなどが咲き始めました。白樺の木によっては、もう黄葉しはじめています。市場にはイチゴ
とグリンピースが安く出回りはじめました。あと1週間もすれば、ベリー(野生イチゴ)の季節、もう少したつとキノコの季節がはじまるとのこ
と。秋がそこまで来ているようです。
14-8 in situ のツボ
35S 標識プローブを用いた in situ をやっています。最初はよくわからなかった DEPC処理水の使い分け(= RNase
free
の要、不要)もはっきりとわかるようになり、ストックなどの作り方もわかるようになりました。プローブのラベリングや回収は、大昔の卒論研究での経験が役
に立ちました(何と14年も前)。誰かが、細胞培養よりずっと楽だと言っていましたが、全く同感です。
DIG
標識プローブと比べると、ハイブリダイゼーションの条件が安定しており、データの信頼性が高いように思います。ポイントは、比活性の高いラベリングをする
ことで、これは何度かやるうちにできるようになります。一方、欠点は次の3つ。
1. コストが高い。35S UTP も、RI 施設の維持も。
2. expose する時間がかかる。通常 10 日。
3. 35S
プローブが古くなるとシグナルが出にくくなり、複数の実験群での強弱を比較出来ない。このため、同時にたくさんのサンプルを扱う必要が出てきて、大がかり
になる。
免疫組織染色では、個々のタンパクの性質の違いに左右されるため、目的に応じて固定法や発色法、増
感法を変える必要がありますが、in situ
では、個々の物理的性質の違いは殆ど気にしなくて済むためプロトコールはつねにひとつです。これは相当な利点でしょう。Irma は、「in
situ
の結果の方が信頼できる」といいますが、今では同感です。まったくそのとおりと思います。ただ、機能を調べて行くのには、タンパクの追跡が必須ですから、
多少の困難があっても免疫組織染色を可能にすることが必然となります。ステップとしては、in situ
でデータをとり、発現パターンなどを得てから、免疫染色を進めて行くという手順が無難なのでしょう。