© 1996-1997, Kyu-hachi TABATA
ヘルシンキだより #15      1997- 7-20 記

今回は、私なりの実感も交えて、聞きかじりのフィンランド紹介です。等身大の「フィンランド情報」となれば幸いです。


15-1 フィンランドは島国?

地理的に「北欧」というと、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、そしてフィンランドの5ヶ国をいいますが、多くの点でフィ ンランドは前4者と異なる国です。例えば、北欧神話やバイキングがスカンジナビア精神のルーツといえますが、これらはフィンランドとは無関係 です。フィンランド精神のルーツは、19世紀に医師ロンルートが編纂した「カレワラ」で、彼がカレリヤ地方で収集した口承詩や伝承神話をもと にしたワイモナイネンを主人公とした民族叙事詩です。

また、フィンランド語は、「フィン・ウゴル語族」に属しますが、これはヨーロッパではこく少数派です(ハンガリー語、エストニア語のみが同語 族)。例えば、「おかあさん」というのをフィンランド語では aiti(=アイチ)といいますが、他のヨーロッパ語では、すべて、mam/mother(=マム・マザー)に派生する単語です。このように 基本単語が著しく違い、文法や発音体系も違うため言語的に孤立しています。人種も中央アジアを起源とする通説があり、少なくともノルウェーや スウェーデンなどに住む人々とは風貌や体格がかなり違います。こうしたことから、「フィンランドは北欧ではない」とか、「フィンランドは一種 の島国だ」と言う人もいます。

ちなみに、エストニアはバルト海を挟んで向かい合う位置にあり、言葉も比較的通じやすく、氷河時代までは同一民族であったため、親戚のような 意識をお互いに持っているようです。実際、フィンランドでは多くのエストニア人が活躍しており、生物工学研究所所長の Mart Saarma もエストニア人です。また、旧ソ連から独立したエストニアへの援助や資本投入をもっとも積極的に行っているのはフィンランドです。

15-2 スオミの国

フィンランドというのは、歴史家ヘロドトスが名付けたものらしく、スオミというのが本当の国名です。その名は「湖沼の地」という意味で、森と 湖沼と小島の多い国です。国土面積は、33.8万平方km(=北海道+本州+四国)。湖沼の数は約19万個、国土面積の10%を占めます。小 島の数も約19万個といわれますが、こちらの数は諸説さまざまで正確な数や面積は不明。土地そのものは平坦で、山がほとんどありません。また 土が少なく、殆どの地面が固い岩盤でできています。

全人口は約500万人。ここ10年での人口ののびはあまりありません。首都はヘルシンキで人口50万人。衛星都市のエスポー18万人、ヴァン ター16万人を加えても約84万人。また、これに継ぐ都市でも、タンペレ17万人、トゥルク16万人、オウル10万人といったところです。公 用語はフィンランド語とスウェーデン語。ほとんどの人々が英語も話すことができるので、トリリンガル(3ヶ国語をしゃべれる人)ということに なります。

信仰の自由が認められていますが、ルター派のキリスト教徒が大半。このルター派というのは、教会への帰属がゆるやかで、平等感が強い(=聖人 を認めない)、偶像崇拝をできるだけ排する(=祭壇が簡素である)といった性格の宗教です。Anne や Johanna は、「もう10年ぐらい教会のミサに行っていない」と言って笑っていました。もちろん二人とも不道徳な人間でも不信心な人間でもありません。多分、平均的 なフィンランド人だと思います。このようにルター派は、あまり宗教臭がしないため、不信心な日本人(=私?)にも居心地がよく感じます。浄土 宗、浄土真宗に似ているというのが私の感想です。

15-3 スオミの人々

髪の色は茶色かブロンド、目の色は青色か灰色、背格好は概して小柄で、日本人とそう変わらない人が多いと思います。顔つきも時々、髪と目が黒 ければ日本人だな、知り合いによく似ているなあ、などと思える人がいます。性格は温和で、忍耐強く、その遠慮深さや思慮深さは日本人の美徳と 共通するものがあります。

有名人といえば、トーベ・ヤンソン(ムーミンの作者)、ジャン・シベリウス(フィンランディアなどで知られる作曲家)、パーボ・ヌルミ(往年 のランナー、元祖 "Flying Finn")、ガッレン・カッレラ(画家)、アルバル・アールト(建築家)、マウノ・コイビスト(政治家)、カール・グスタフ・マンネルハイム(軍人)、 エリアス・ロンルート(カレワラの編纂者)などでしょうか。

15-4 スオミの歴史

東はロシア、西はスウェーデンという2つの大国に挟まれ、苦難の歴史をたどります。しかし、スウェーデン統治時代(1200-1809)、ロ シア支配下にあった自治大公国時代(1809-1917)を経て、ついに 1917年12月6日独立します。内戦などの混乱もありましたが、マンネルハイム将軍の活躍などでこれも収まり、1919年共和国となりまし た。

しかし、ソ連の領土割譲要求に応じなかったことから、1939-40年に冬戦争勃発。その後もソ連のバルト3国併合などがあり、ソ連との関係 は悪化。このため、国土防衛のために第2次大戦では、ドイツと共にロシアへ侵攻しますが、1944年に敗戦国となります。そして、ソ連へのカ レリヤ地方とペットサモ地方の割譲、2億ドルもの賠償を課せられました。しかし、勤勉な国民は、この賠償をわずか8年で返し、1952年には ヘルシンキ・オリンピックを開催しています。このオリンピックは、同じく敗戦国であった日本が戦後、初めて参加が許された大会であり、多くの 日本人にとって印象に残るものでした。

ソ連との関係は、1948年に友好協力相互援助条約を結んでからは、相互信頼を基にする政策(パーシキビィ路線)で安定。スイスにつぐ中立政 策をとるようになりました。しかし、冷戦下においては、つねに核の脅威にさらされていました。そこで多くの核シェルターが作られました。 ちょっとした岩山には必ずといっていいほどトンネルが掘られ、頑丈な鉄の扉がつけられ、その扉には三角のマーク。核シェルターのマークです。 アパートなどにも核シェルターとなる地下室があり、入り口は3重にしまる様になっています。地下鉄の駅も核シェルターとして機能するように設 計されています。電気やガス、水道などのライフラインもすべて地下を走っています。食料備蓄も全国民の1年分あったとか2年分あったとか聞い ています。「核への備え」が半端な取り組み方ではなかったことがよく伺えます。こうした緊張の時代は、1991年のソ連崩壊でやっと終焉した のでした。EU加盟交渉は1993年より開始され、1994年の国民投票を経て、ついにEU加盟国となったのでした。

15-5 旗は青十字
 
フィンランドの旗は白地に青十字を染め抜いたもので、雪の白さと水の青さを示す配色で す。他の北欧4国と同じく十字をあしらったものですが、シンプルさがひときわ目立ちます。フィンランド人は「シンプルなのがいい、だから日の 丸もいい」とのこと。そういえば、子供の時、運動会のたびに万国旗を作らされましたが、「日の丸」と「青十字」はいつも私のレパートリーでし た。

フィンランドでは、年に一体いくつあるのだろうというほど、しょっちゅう記念日があり、そのたびにあちこちで国旗が掲げられます。また、一軒 家では、記念日でない日でも吹き流しの様に見える細い三角の布地で作った青十字旗を掲げる習慣がしばしば見受けられます。この習慣は、ス ウェーデンやノルウェーではより一般的だそうです。

家族やアパートの住人が亡くなると半旗を掲げます。日本のように花輪や樒が出たりはしませんが、この半旗ですぐにわかります。霊柩車は黒塗り の寝台車でやはり半旗をつけて走ります。このほか、新聞に死亡広告を載せるのが習慣です。この死亡広告の習慣はフランスやイギリスにもあると 聞きました。

15-6 バルト海は辛くない?

フィンランドは南側がバルト海に面していますが、その海は冬になると凍結し、港では砕氷船が活躍します。また、ヨットやボートを持つ人々が多 いのですが、彼らもそれらを陸揚げして冬を越します。あまりにあっけなく海が凍るので驚きましたが、それもそのはず、口に含んでも塩からさを ほとんど感じられないほど、淡水に近いのです。陸水が多く流れ込むこととバルト海の袋小路に位置するのがその理由です。波も殆どなく、静かな 湖水のように見えます。

魚も汽水域を好むものに限られ、スズキ、ウナギ、タラ、ニシンなどが優先種です。沿岸付近の水中には淡水草本類しか見られず、海岸ぎりぎりま で、普通の植物が繁茂しています。

15-7 サウナの効用

フィンランドで生まれた世界に誇る文化のひとつはサウナです。薪を使うのが昔ながらの方法ですが、最近では電気式がほとんどです。石を熱く熱 しておき、これに湯をかけて蒸気を発生させ温度を調整します。どんどん湯をくべて、サウナをどんどん熱くして我慢くらべをしたりすることもあ ります。白樺の枝で作った体をたたく道具とビールがサウナを楽しくしてくれます。

昔は、サウナ小屋が出産の場だったそうです。といっても暑いサウナの中で出産するわけではありません。熱したあとに冷ましたサウナ小屋はいわ ば滅菌処理を施した清潔な場所になります。そこでここを出産の場所としたわけです。勿論、こうした科学的な根拠に基づくものではなく、生活の 知恵だったと思いますが、産褥熱などの予防に役に立ったに違いありません。

15-8 フィンランドってディズニーランド?

来フィン前のことですが、綾子には「フィンランドは、サンタさんがいて、ムーミンがいる国なんだよ」と説明しておりましたところ、フィンラン ドを国ではなく、ディズニーランドのようなアミューズメントパークだと思い込んでいました。よほど以前行ったディズニーランドが面白かったの でしょうか、あっさりと「フィンランドに行きターイ!」。あとで誤解がわかり大笑い。幸い、アミューズメントパークではなかったにもかかわら ず、フィンランドを楽しんでくれています。

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