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休八写真館その他のカメラ室(インスタントカメラ)

Polaroid Land Camera 350



ポラロイド ランドカメラ
        350 Polaroid Land Camera 350 若い時に「ずいぶんクラシカルだな」と思った 100 シリーズのカメラを、今はカッコいいと思うし、愛(いと)おしくも思う。先進性に驚くこともできる。

この 350 は、電池室に液漏れがあったものの、他は綺麗な状態。ジャンクの可能性もあったが、思い切って入手。いろいろと補修して使えるようにした。

1948年のモデル 95 が最初のインスタントカメラで、世界中から驚きをもって迎えられた。すでにピールアパート式であったが、ロールフィルムであったため、ボディがかなり大 型で重かった。それが、モデル 100 (1969年)から、カットシートフィルムを使ったレンジファインダー機になり、ボディも軽量になった。しかも、シャッ ターを電子制御する AE 機となっていた。本格的なAE カメラは、Canon AE-1 だと言われるが、実はそれより 12 年も早く実現していたことになる。フィルム現像をインスタントにするだけでなく、撮影の手間もインスタントにするというランド博士の思想が具現化したカメ ラだった。その後、100番台、200番台、300番台と展開されたが、基 本のデザイン、材質、機能は不変だったから、最初から高い完成度であったことがよくわかる。

絞りは実に簡単で、丸穴が開いているだけ。ボックスカメラ などで使われている単純なものだが、フィルム感度にあわせて、75, 150,300, 3000 の4つ、これに室内、室外の切り替えがあって、実際には8個の違う大きさの絞り穴が選択できる。シャッターは、レンズシャッター位置にあるが(レンズ群の 前玉と後玉の間にある)、 フォーカルプレーン式で先幕と後幕があって、両者の動き出す時間差がシャッタースピードになる。この時間差を生み出すの は 3V で駆動する露光メーターであるが、シャッターチャージそのものはスプリングを使っていて、大判カメラのレンズシャッターと同様にレバーを押し下げてチャー ジする。絞りが段階的であるから、シャッター速度は無段階的に制御されているはずである。新旧の仕組みをうまく組み合わせた面白いカメラだと 思う。

畳んだときの形がなかなか美しい。組み立てる時は、まず、軟質プラスチックのフロントカバーをはずす。 ホック部は磁石で止まっているのだが、この磁石は引き起こ したファインダーを止めるのにも使われる。 ファインダーは、廉価版では簡易レンジファインダーだったり、フレームが別窓でいわゆる二つ窓式なのだが、250や350などの高級機になると一体化し て、ひとつ窓式になる。 右シャッター付近のフックを少し上にずらすと、アームを引き出せる。ぱちんという音がするまで起こすと組み立て終了だ。あと は、アー ム全体を左右に動かすノブがあって、それで前枠が前後できるので、ピント合わせができる。露出やフィルム感度を合わせておいて、シャッ ターチャー ジをしてレリーズを切る。収納の時は、左アームの付け根を軽く押さえながらアームをたたむ。レンズが前に繰り出されていても、たたむことで収納可能な場所 にまで戻る。良くできてる。考えられている。

ポラロイドの最高傑作といえば、カメラもフィルムも SX-70 シリーズだろう。しかし、ポラロイドの中核といえば、カメラもフィルムもこの100 シリーズであり、さまざまな用途に使われた。つまり、経済性や汎用性という点で 100 シリーズは最もすぐれており、インスタントカメラの普及に大きく貢献した。おかげで、ポラロイドなきあとでも、互換フィルムがあり、使用できる。シャッ ターを押し、フィルムを取り出して、現像を待つ間、昔の記憶がいろいろとよみがえる。

そういえば、あの頃は、普通のフィルムとインスタントフィルムがうまく共存できていた。インスタントフィルムは便利 で迅速だが、普通のフィルムよりも高価で画質が劣るため、うまく使い分けられていたのだ。しかし、デジタルカメラが登場して、まず、イ ンスタントフィルムのポジションを奪い、やがて、普通のフィルムのポジションも奪ってしまった。

いまや、ほとんどデジタル一色の時代である。カメラどころかスマホで写真を撮るのが普通になりつつある。若い人にたずねると、フィルムを使っ て撮 ることも、ファインダーを覗いて撮ることも、カメラを使って撮ることも、未経験の場合がほとんどだ。ポラロイドの居た時代は、いろんな選択肢が あったし、カメラも多様で面白かったなと思う。

追記1: カメラ雑誌にある 「名機100選」 や 「歴史」 などの特集記事で、ポラロイドが抜けていることがある。ポラロイドは普通のカメラとは違って、全く独自の世界を構築してい たので、別物あつかいされているのだろうか。ポラロイド 100 シリーズの系譜はこちら

追記2: インスタントフィルムの製造には、コダックも参入したが、激しい特許訴訟の末、1976年に敗訴してコダックは6億ドルという 多額 の賠償金を払い、工場閉鎖や人員整理も必要になって、大ダメージを被った。コダックは、その後、世界最初のデジタルカメラを開発して、ポラロ イドに意趣を返したと思うのだが、デジタルの普及は燎原の火のごとしで、ポラロイドは2001年に経営破綻。コダック自身も2012年に 経営 破綻した。ポラロイドがコダックの参入を容認して、技術提携していたら、両者相打ちはなかったかもしれない。

追記3: カメラは湿気を嫌う。だが、ポラロイドの場合は、現像のための化学反応を機体の内部、もしくはすぐ近くで行う必要がある。この た め、手入れを怠るとすぐに汚れたり、腐蝕が起こりやすいはずだが、案外、キレイな個体が見つかる。堅牢な作りなのと持ち主が大事にしているの と両方なのだろう。

追記4: Chamonix Saber は、この 350 や 250 をベースにした大判カメラ。完成度がさらにアップ。

発売年
1969年   愛着度★★
型 式
ポラロイドインスタ ント フィルム対応カメラ/レンズ固定式/レンジファインダーカメ ラ
レンズ 114mm F8.8
シャッター 機械式レンズシャッター  10秒 - 1/1200
シ ンク ロ接点
独自規格。
測距
マニュアル。二重像合致式。
フィルム交換
1.下部にあるロッ クレ バーを廻して、背面を開ける。
2.空のカートリッジを取り出し、新しいカートリッジを入れる。
3.白タブが中に折れ込んだり、下に出ないように注意して背面を閉じる。遮光カバーの黒タブがフィルム引き出し口から出てい るの を確認。うまく出ていなかったら、蓋を開けてやりなおす。
4.黒タブをひきぬく。白タブが出てくるのを確認。
撮影手順
1.明るさノブを設 定し、シャッターチャージをする。
2.ファインダーでピントを合わせ、シャッターを切る。
3.白タブをひく。やや前方に向かってひくのがコツ。
4.黄タブが出るので、それを真横にひいて現像を行う。
5.現像時間は下記。タイマーを設定しておくと、黄タブを抜いた瞬間から計時してくれるので便利。

Fuji FP-100C
Fuji FP-3000B
温度(℃)
10
15
20
25
30
35
15-17
18-19
20-23
24-35
時間(秒)
270
180
120
90
75
60
30
25
20
15
6.現像時間が来たら、ネガを剥がす(ネガは捨てる)。
7.写真の表面は濡れているので、しばらくの間は、触らないようにして少し乾かす。湿っていると保存しにくいので、保存の前 には、室内などでしっかりと乾かす。
大きさ・重さ w192mm x h144mm x d155mm 1,120g  (電池込み。収納時、フロントカバーをして h114 x d68mm  1,320g)
参考 web
Jim's Polaroid camera collection:  http://polaroids.theskeltons.org/   (←膨大なコレクション)
富士フイルム FP-100: http://fujifilm.jp/personal/filmandcamera/film/instant/peelapart.html
インポッシブル・ショップ: https://shop.the-impossible-project.com/shop/
参考文献
「ポラロイドの世界」 日本カメラ社 1985
「ポラロイド ライフ」 PIE Books 2005
藤田一咲 「ポラロイドの時間」 竢o版 2006    ←これが一番参 考になる。後半の「ポラロイド図鑑」 もス ゴイ
「ポラロイド・カメラ展」日本カメラ博物館/図録 2010

<修 理の覚え書き>

1.電池室の改造。Eveready #532 (3V) 電池2本を使う仕様なのだが、入手しにくいし、液漏れしていたので、電池ケースの部分を取っ払い、リ チウム電池 CR2 (3V) 2本をセットできるようにした。これにより、露出計に 3V,  現像タイ マー に 3V が通電され、それぞれ使えるようになった。
2.蛇腹の光線漏れの修理。蛇腹の折目に開いた小さな穴をゴ ム塗料で補修する。何度か補修とチェックを繰り返した。
3.撮影テスト。フィルムは高感度白黒フィ ルムの FP-3000B。露光指数 3200 だが、ランドカメラでは、3000で適正。室内などの撮影はできるが、戸外だと露光がほとんどない。つまり、低速シャッターは大丈夫なのだが、高速になる とシャッターの先幕と後幕の時間差がうまく行かなくて、失敗しやすいことがわかった。長いこと使われていなくて、シャッターがスムー ズに動かなくなっている可能性があると考えて、毎日、数十回ずつシャッターを押すようにした。数日後には、ほぼ、全速でシャッターが おりるようになった。

Polaroid 350 / ポラロイド 350

東京
・隅田川で。出たばか りのススキの穂。秋のはじまり。
シャッタースピードはあまり早くないので、風が吹くとぶれてしまう。
114mm F8.8 / FP-100C
東京・隅田川の中央大橋。
現像が進むとだんだん青がキレイになる。

114mm F8.8 / FP-100C
Polaroid 350 / ポラロイド 350

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